よう知らんけど日記

第91回 大阪人は1秒で台北になじめると思います。

2015.12.10 12:40

9月☆日
『春の庭』台湾版『春之庭院』刊行記念、台北での公開イベントは、『聯合文學』の編集長で小説家の王聰威さんと、『歩道橋の魔術師』の呉明益さんとそれぞれ書店でトークイベント。
王さんとは、おしゃれな[誠品書店松菸店]の広々したイベントスペースで対談。作家であり編集者でもあるので細かいところまで的確に読んでいただいて、鋭い質問が次々と。日本でもそこまで緻密に読んでくれる人なかなかいません。あれもこれも拾ってくれて、すごくうれしかった。なかでも心に残ったのは、『春の庭』の登場人物たちは、離婚してたり家族と交流も近所づきあいもなく、とても孤独なのはなぜなのか、という質問。わたしの小説、日本ではむしろ「友達が多すぎる」「知らない人とこんなにしゃべるなんて」と言われたりするから、台湾から見るとずいぶん違うのやなと。『春の庭』の登場人物は、ほかの小説に比べると確かにちょっと孤独度が高いけど、それでも、アパートのほかの住人と交流があるなんて今の東京ではそうそうない、という感想もあるわけで(というか、わたし自身、今まで東京で住んだ4軒で交流はほぼないし)、今の日本の生活って平均的にさびしいかもなーと。王さんの本は日本では翻訳出ていないのですが、読ませていただいた短編が王さんの出身地の高雄(台北より大阪っぽいらしい)を舞台に日本統治時代の記憶が交錯する不思議な話で、もっと読んでみたい。『聯合文學』も東京小説特集やインタビューなど充実しててよかった。中国語は漢字でだいたい意味分かるのがええね。

9月☆日
呉明益さんとのイベントは台湾大学の正門前の小ぢんまりした書店。大学前の書店らしく、専門書や古典や思想系の本が充実してて、こういう自分が賢くなったような気がする空間、もっと勉強したいと思う場所って好きやねんなあ。

地下のスペースはぎっしり満員御礼、まだ出版から1週間くらいやのに、読んできてくれたお客さんが半分以上! 質問も、かなり内容に踏み込んだ的確なもので(太郎が骨をすりつぶした鉢を置いていることや語り手が変わることなど)、その熱心さに感動しました。いや、ほんま、異国の地で自分の本を読んでくれてる人がいるって、信じられへんぐらいの幸福やと思うわ。呉明益さんは、台湾ではかなり人気のある作家さんで、その呉さんに巻頭の推薦文や帯を書いていただいたのでその効果が絶大でありがたいかぎりやのに、さらに、『春の庭』のラスト近くの、太郎が人工衛星を見上げる場面を朗読してくださったのが身に余る光栄です。そして、2回のイベントを通じて、みなさんがとても的確に読みとってくださってたのは、翻訳がすばらしいのやなあ、と実感しました。黄碧君さん、ありがとうございます。

9月☆日
台湾の出版社「聯經出版」と、台湾と日本の文学を紹介している「聞文堂」の皆さまに、連日おいしいお店に連れて行っていただきました。前回ちょっと書いた客家料理は、味付け濃いめのおかずを白ごはんで食べる、日本人にはたまらない家のごはん的な料理。小籠包は、誠品デパートの地下に入ってる[高記・小団円]でベーシックなのと蟹小籠包と焼き小籠包(さらにスープと麺と青菜炒めやらめっちゃ食べました……)。その隣は2010年にパンのワールドカップで世界一になったパン屋さん[呉寶春]で、塩味のきいたパンやらネギの総菜パン、あんパン、チーズの乗ったプレッツェルみたいなんとかおいしかったなあ……。広東料理、海鮮料理(薄味の魚介の寄せ鍋、魚介の揚げ物煮付けいろいろ、これが地元の料理らしい)、白菜の漬け物と豚肉の鍋も食べました。この白菜鍋コースについてたホルモンの揚げ炒めみたいなんがスパイスきいてておいしかった。台湾は、中国各地の出身の人が暮らしているので、あらゆる地方の中華料理が食べられるという天国。 とりわけおいしかったんは、と思い出すと、牛肉麺。関西出身で台湾で10年暮らしてるわたしと同い年の女性のおすすめ、ということで、もうずばり刺さりました。麺が透明感のあるうどんみたいな麺で、醤油と塩と選べるスパイスの香りがきいたスープ、牛すじがとろとろ……。醤油を食べたので、塩もぜひぜひ食べたい。毎日あまりにもおなかいっぱいすぎて、夜市で食べられへんかったんが心残りです……。

9月☆日
雑貨屋さん、どこに行ってもおしゃれなもんがいっぱい。ヨーロッパや日本のものも多いんやけど、台湾デザインのものもどんどん増えてきてるよう。前回書いた「松山文創園區」と同じく日本統治時代の建物をリノベした「崋山1914文化創意産業園區」(元は酒工場)や「西門紅楼」(元は公設市場)もおしゃれショップやカフェが入ってて、見て回るだけで楽しかった。清朝時代の古い問屋街で煉瓦造りの建物が並ぶ「迪化街」も、内部は洋服店やイタリアンレストラン、ギャラリーに改装されてたり、町工場の長屋がひしめく路地に美容院や洋服店のある「赤峰街」は代官山・中目黒っぽい感じ。全体に、雑貨店もカフェもお店が広々してるのがよかった。

どこに行っても、マスキングテープが日本以上の大ブーム。各所でオリジナルのいろんなデザインのが売ってて、歴史の古い龍山寺でもオリジナル柄を売ってたし、故宮博物院でも所蔵品をモチーフにしたのが何種類も並んでた(王義之や皇帝の書・印鑑のテープ、帰国してからツイッターにアップしたら、えらい反響がありました)。案内してくれた人の話だと、なんでもとりあえずやってみる、アイデアを実行に移すのが速い、という気質があるようで、その勢いをあちこちで感じた。日本はこの10年、20年、若い人が新しいことやるのがとても難しくなっているので、ええなあ、と。韓国行ったときも思ったけど、日本は会議、打ち合わせ、根回しの類が多すぎるうえに、新しいことをするとか、若い人の意見が通るとか極端に少ないのは、なんとかせんとあかんよなー。
ちょいちょい見かけてんけど、雑貨やカフェの黒板に書いてあるヘタウマ文字みたいなのが、日本とそっくり! 文化の伝播っておもろいなあ。

9月☆日
呉明益さんの一押し、龍山寺へ。隣の広場でおっちゃんらが将棋・囲碁をやってて(他人の対戦を囲んで眺めるあのスタイル)、わー、天王寺みたいや、と思ったら、横道の商店街はちょっと怪しげなうらぶれた店が並ぶ、この雰囲

気は、そうジャンジャン横丁やん! 親近感いっぱいやわあ~。

清朝時代から続く古い問屋街にある、永楽市場という公設市場の2階は生地屋さんが集まってて、船場センタービルそっくりやった。売られてる布も、虎柄にヒョウの顔ばーん! もちろん隣はゼブラ柄にシマウマばーん! 大阪の人は、1秒で台北になじめると思います。

9月☆日
台北、おしゃれやし、食べ物おいしいし、コンビニだらけで暮らしやすそうやし、大阪感あるし、住んでみたいなー、とか浮かれてて思ってたら、大問題が。家がめちゃめちゃ高い!! ごくふっつーのマンションが、1億、2億は当たり前。不動産屋の店頭で広告見てたら、この値段は円表示? て混乱するほど。1円=4元ぐらいなので、東京や大阪の相場の3~4倍っていうとこやろか。台北一極集中やったり中国本土からの投資が入ったりというのがあるのやろうけど、あまりのことに驚きました。賃貸がどれくらいなのかわからないけど、ちょっと住んでみよか、とはいかなそう。実は台湾は日本以上に少子化進行中なのですが、この家の異常な価格も一因のようです。

9月☆日
テレビで朝の情報番組。テロップを見るとだいたい意味がわかるのに、耳で聞くとまったくわからない。中国語と日本語の関係って不思議やなー、と思いながら、日本と同じ「文法」のカメラワークや画面構成を眺めていると、占いコーナーが! 星占いを星博士(若い男性)が解説。これはほかの外国では見たことなかったなあ。日本と台湾以外に、情報番組でこんなに占いに力入れてる国ってあるんやろか。

9月☆日
それにしても、ほんまに街が賑やか。原付率がめっちゃ高いねんけど、おもろいのが男子がバイクに二人乗りしてる姿が多いこと。ちょっとそこまで乗してって~、ぐらいの感じっぽいけど、日本ではまず見いへんよね。
台北のみなさん、どうも朝は弱いようでお店も11時ぐらいにならな開けへんねんけど、そのかわりに夕方~夜はどこに行っても道にじょろじょろ人がいる。ソウルに行ったときも、百貨店が日付け変わるぐらいまで開いてたり、真冬のマイナス10度でも、夜中の2時に飲食店がまだまだこれからな賑わいやったり(わたしもその時間に鶏鍋・タットリタン食べたし)、カフェでわいわい勉強してたり。とにかく外で人といっしょに過ごしてるんよね。台北ではワンルームはほとんどなくて、基本ルームシェアらしい。旅行のお楽しみ、地元のスーパーに行ったらなんでも特大サイズで、2リットル入りのビックルに爆笑してんけど、アメリカの特大サイズは買いだめする&食べる量が多いのに比べて、一緒に住んでる人数が多いからやな、と納得。ま、基本サイズも日本よりは二回りぐらい大きいねんけどね。
日本は、ごく一部の繁華街を除けばひっそりしてて、あんなに大勢いるはずの人間を、住宅地ではほぼ見かけない。そら、王聰威さんもわたしの小説読んでさびしいって感じはるよな。日本は仕事が忙しすぎて出かける余裕なんかないのかもしれへんけど、渋谷や新宿も終電ぐらいの時間になったら全然人おらんくて、東京でもこんなもんなんやな、って最初は驚いた。このところ考えてるねんけど、日本は一般に、人としゃべる、関わるのにハードルが高いんちゃうかな。よく知ってないとしゃべらへんというか、しゃべると親しくならなあかんと思う生真面目ところがあるというか。「友達」もなんでも話せる、わかりあえる、助けてくれる人、と理想的に思いすぎてたり。どんな仲良くても何でも話せるなんてことはないって思ったほうがかえって楽やと思う(柚木麻子さんの『ナイルパーチの女子会』は、この「友達」に対する重すぎる願望や幻想をこれでもかと描いてて、いろいろ腑に落ちた)。
よう知らんけどしゃべる、しゃべるけどよう知らんでもええやん、という、大阪のおばちゃんみたいな関係性がもっとあったらええのにな、とつらつら思いつつも、学生街で薩摩揚げ的なもの、かき氷、鰹だしのイカ団子つけ麺などを食べながら、夜は更けていくのでございました。
(台湾、おいしいものが書ききれないので、もうちょっと続きます)

 

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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