よう知らんけど日記

第93回 座頭市の殺陣速っ!! どないなってんの!?

2016.1.15 13:01

10月☆日
台北日記書いてたらまた時差ができてもうたので、10月11月は圧縮気味で。
午前中はケーブルテレビの日本映画専門チャンネルで昔のドラマばっかり見てます。
まず平幹二郎主演版の『不毛地帯』にはまったのをきっかけに、おなじみの『傷だらけの天使』『探偵物語』、中村雅俊と松田優作主演の刑事もの『俺たちの勲章』。『傷天』は萩原健一と水谷豊、『俺たちの勲章』は正義感あふれる刑事・中村雅俊とアウトローな革ジャン刑事・松田優作の今で言うところのバディもの、というか「腐」要素が濃すぎで結構びっくりします。

特に『傷だらけの天使』の「アニキ~」のセリフが物まねもされてた22、23歳頃の水谷豊が、翌年放送の『俺たちの勲章』でやくざの殺し屋を演じてる回がすごい。恩のあるやくざの言いなりに人を殺してきた水谷豊が、最後松田優作に撃たれて奄美の青い海のボートの上で瀕死の状態で「オヤジ~、もう殺しはいやだよ……」とつぶやくシーンはあまりにかわいすぎて、この当時の水谷豊はこういう少年と青年のあいだの甘さや危うさやイノセンスみたいなものを体現する存在やったんやなあと。わたしが水谷豊を認識したのは『事件記者チャボ』(83年)やったので、こんな危うい少年がはまり役の人やったのね、とイメージが変わる。この「腐」を呼び込む性質が現在の『相棒』につながっているのやろうか、と深読み?したり。
『俺たちの勲章』なんか最終回、不祥事で転属になり中村雅俊と別れ別れになったあと松田優作が一人で拳銃を笑いながら撃ちまくるシーンで終わるという、腐女子的な感覚がテレビ的・一般的にはあんまり語られてなかった時代だからこそ、かえってあからさまに男同士の関係性が前面に出てて興味深いです。

10月☆日
『傷天』『探偵物語』『俺たちの勲章』あたりを見てると、ゲスト俳優が豪華やしおもしろい。池部良、吉田日出子、桃井かおり、倍賞美津子、風吹ジュン、大友柳太朗、風間杜夫、樹木希林、関根恵子、石橋蓮司、五十嵐淳子(この共演がきっかけで中村雅俊と結婚)、吉行和子、などなど。あんまり変わらへんなーという人もいれば、今とだいぶイメージがちゃう人もおる。特に、日本やと女優さんはある程度の年齢になると「いいお母さん」みたいな役ばっかりあてがわれてしまうので(もったいない!)、吉行和子の擦れた女感なんてかなり素敵~と思ってしまう。

『不毛地帯』なんてもうお正月映画みたいなオールスターキャストなんやけど、昔のドラマ見てて思うのは、いろんなタイプの役者さんがおるなーということ。今って、基本美男美女、しゅっとした人ばっかりやなと。『不毛地帯』の2008年版と比べると、昔のほうはもたっとした人、どっしりした人、いろいろおってリアルかつ個性的やけど、新しいほうはだいたいシャープな男前。金子信雄や若山富三郎や中村敦夫みたいな役って、この先の映画やドラマで誰がやるんやろうと考えてしまう。今はしゅっとした美男美女じゃないとなかなかメインストリームには出てこれないんやろうなあ、いい役者さんようさんいてるやろうにもったいないなあ、と思いながら見ています。

10月☆日
そしてそうこうしてるうちにえらはまりしてしまったのが、時代劇専門チャンネルで再放送してる『座頭市』。これ、今は絶対地上波で放送できひん表現の筆頭かもしれへんねんけど、おもろいわー。勝新太郎て、わたしくらいの年代やとやっぱりもう「事件」のほうが印象強すぎて役者の記憶がほとんどなかってんけど、座頭市の殺陣速っ!! どないなってんの!? めちゃめちゃかっこいいやないですか! そら、バルテュスもファンになるわ!(バルテュスのドキュメンタリー映画に、スイスの山荘に勝新を招待する場面がある。サービスで殺陣と按摩披露するやりすぎ勝新に、バルテュス苦笑い……)

特に、『新・座頭市』第1シリーズ 第23話なんか黒木和雄が監督で原田芳雄がゲストという『竜馬暗殺』やん! なすごい回。原田芳雄が、殺された恋仲の女とうり二つの女(江波杏子の二役)と出会う話では、途中で殺された原田芳雄の幽霊が出てきたり、時間軸が3つある複雑な構成。しかもほとんど説明ないし。勝新は明らかにアドリブばっかりで、よう見ると原田芳雄が笑いをこらえてたり。自由やなあ~。わかりやすさ第一の今のテレビやとこういうのははじかれてしまうやろうな。
しかし、昔の時代劇見てると、ほんまひどい話、えげつない話ばっかり。『座頭市』の大竹しのぶが盲目の少女を演じてる話なんか、暗いしえぐいし救いのない結末やし、なんでここまで悲惨な話が多いんかな。まあ、確かに今地上波で放送するのは無理やなと思う。だからケーブルテレビで興味持った人が見られるというのはいい仕組みやね。

11月☆日
神楽坂の[la kagu]で写真家の米田知子さんとトークイベント。拙著『春の庭』のカバーの窓越しの木々の写真も米田さんの作品です。米田さんは、災害や紛争、歴史的な事件があった場所の写真を撮り続けていて、以前からお話ししてみたいなと思ってました。米田さんの写真に写ってるのは、一見ただの草地やったり駅や空き家やったりするのですが、そこは収容所があった場所とか、戦争のきっかけとなる暗殺事件があった場所、戦争に深く関わった人物が住んでた家やったりする。それで、そのエピソードを聞くと写真の印象がすごく変わる。『春の庭』のカバーの写真も、読者の方に「素敵な庭ですね」と言われたりするのですが、実は韓国の秘密警察の建物で窓はマジックミラーなんです。

そして今は取り壊されてもうないそう。小説の筋に直接関係のない文脈の写真を使うことに躊躇はあったのですが、場所の過去・歴史という共通性もあるので使わせていただくことにしました。米田さんの写真ではほかにも、ガンジーや谷崎潤一郎の眼鏡越しにその手紙や原稿を撮影したシリーズも、過去の時間やその人の内面がそこにあるように感じられてとても好きなんです。そして、実際にお会いした米田さん、今はロンドンとフィンランドを行き来してらっしゃるそうなんですが、明石のご出身ということで、普段はめっちゃ関西弁のさばけた雰囲気の方で、お話しするの楽しかったー! 写真と時間、移動なんかの関係についてもいろいろ考えられて、お話しできてほんとによかったです。明治天皇も来た洋館が明石にまだ残ってるとうかがって、めっちゃ入ってみたくなってます。どこにあるんやろ。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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