よう知らんけど日記

第98回 なにげない日常なんてない。

2016.5.16 13:12

2月☆日
冬の間は、夏のことってほんまに来るんかなと思うほど遠い感じがする。ずっと冬の景色に慣れてるところに梅がぱっと咲いてるのを見つけて、あ、春になっていくんやな、と時間が動き出す感覚になる。気がつくと、木蓮もつぼみが膨らんでる。春は桜が大人気やけど、その前の梅と白木蓮もとても好き。梅は香りがあるのがええね。

 

2月☆日
大阪~。久しぶりに心斎橋筋商店街に行ったら、週末やったこともあってすごい人! ワイドショーなんかでも話題になってるのは見てたけど、外国からの観光客がほんま多くて圧倒される。ドラッグストアの免税レジには長蛇の列。1時間ぐらいかかるんちゃうかと思うほど。なに買ってるのんか超気になる。店頭ではシートマスクとかお菓子とかが特売やった。去年奈良行ったとき、香港か台湾ぽい女の子が龍角散持って記念撮影してて、なんでやろ、って思ったけど、こないだどっかで見た外国人観光客に人気のおみやげランキングに入ってた。名前が漢字やからええのかなあ。話を聞いてみたい。

人混みから離れて中之島へ。日曜日やからこちらは逆にとっても静か。図書館が工事中で見えへんかったのは残念やけど、川向かいの中央公会堂がよう見えるカフェでお茶。テラス席でちと寒かったけど、スケボーしてる子らが見えたり、アオサギが飛んできたり、水上バスに手を振ってみたり、和やかでいい風景やった。川を楽しめる場所、この数年でかなりできてきてうれしい。もっとお茶できるところ増えたらええのになあ。

2月☆日
日記、案の定、全然書けてません。この『よう知らんけど日記』じゃなくて家で自分用に書く日記のほうね。1日分が5行くらいの3年日記なんやけど、続かへんなあ。書くタイミングがわからんのかなあ。そもそも、日記ってなにを書いたらええのかわからへん、ていうのがある。「よう知らんけど」はこうやって一言ネタを作って書くのでそのほうがはっきりしてて、自分用の日記は、行動を書くのか思ったことを書くのか、行動って食べたごはんもなのか、人に会ったとか特別なことなのか。子供の頃からたぶんそれが今ひとつつかめない。

 

2月☆日
1年おいて3度目の「東京国際文芸フェスティバル」。主に外国の作家さんを呼んでトークイベントがあったり、関連イベントとして読書会があったり。充実のスペシャルウィークです。今回はわたしは、異ジャンルとの交流なイベントで、前半イーガルさんのピアノ演奏と池上直子さんのダンス、そして後半がわたしと、写真家の森山大道さん、デザイナーの町口覚さん。森山大道さんですよ! いやー、森山大道さんの写真、街のスナップ写真、ほんまにかっこよくてすごい影響受けてて、いつかはお話ししてみたいと思っていたのが実現。町口さんは、映画『きょうのできごと』の宣伝美術をやってはってそのときに作った超豪華写真集(見た目はさらっとしてるけど)のディレクターでもあるのよね。そのときに、紙の上では森山大道さんとすでに共演してたのです。町口さんは、かなりユニークなおもろい人で、いつも服がすごくて、ここに写真を載せられへんのが残念なんやけど、この日も真っ青なジャケット+真っ青なパンツ+真っ青なマフラーに真っ赤なスニーカー。最近作ってるシリーズの寺山修司や太宰治と森山さんの写真の本は、表面がふさふさしてて、中の印刷も写真の粒子がこんなに出るのって不思議と思うような見たことない質感。紙に対するこだわりが半端なくて、他にない本を作ってはる。佐内正史さんの本もだいだい町口さん。 森山大道さん、想像通りのマイペースで、素敵やった。途中で「わたし写真部だったので」と言うと「柴崎さん、写真部やったん?」と急に大阪弁で反応があって、あーほんまに写真が好きなんやなあ、と。 ちょうどその前に発売やった『BRUTUS』の森山大道特集で、なにげない日常なんてない、なにげもあるし、さりげもある、と言うてはって、ああ、まさにその感じや、と思った。なにげあることの連続の日常を、なんとか写真や言葉にしたい、って思う。

3月☆日
句会イベント「東京マッハ」。今までも半分以上参加してますが、大人気で今回はぐっと会場が大きくなって新宿サザンシアター。オリジナルTシャツの販売があるというのでほしかったんやけど、開演ぎりぎりに行ったら、希望の柄&サイズはもう売り切れてました。俳句ってとっつきにくいイメージやってんけど、千野帽子さんや堀本裕樹さんの本を読んでたら楽しみ方がわかってきて、そしてこの「東京マッハ!」シリーズで、参加するおもしろさを味わってる。人によっていろんな解釈があるのが、俳句のおもしろいところ。この日のゲストは、池田澄子さんと村田沙耶香さん。村田さんが、数時間の間にもびっくりするようなホラー解釈を連発し(深呼吸っぽいイメージの句を、手術室で空気を胸に送り込んでる、とか)、さすがでした。 今度は大阪で、ぜひやってほしいなあ。

 

3月☆日
今年は早く桜が咲きそうやね、とニュース見て毎年思ってる気がする。東京は大阪より早いから、え、こんな早いの、と思う。と、毎年書いてるような……。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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