よう知らんけど日記

第133回 これは、いわゆるアッパッパでは?

2020.10.22 14:49

カテゴリ:未分類

7月☆日 

家にいる時の服問題。4、5月ごろは、上はスウェット、下はスキニーっていう、アメリカの大学生女子9割がしている服装に落ち着いたんよね。動きやすいし、近所ぐらいは歩けるし、アメリカの女学生合理的やわ、と納得して。在宅仕事歴の長い&運動しないわたしにとって、在宅服のポイントは、動きやすいことで、いつでもストレッチとかできる服にしとかんと、運動するにはいったん着替えて……みたいなちゃんとした服を着てると、まじで何日もまったく体を伸ばさないみたいなことになるんよね。それで、蒸し暑くなってきてからは、今年流行ってる、Tシャツの丈を伸ばした感じのワンピースにレギンス(足首が冷えるので、足の甲まであるトレンカを愛用。冷え系の人には超おすすめです)になり、流行なのでどこでも売ってるし、ほぼ近所のスーパーにしか行かなくなった毎日には、これ以上ぴったりな服はないのでは、と思ってたのやけど。……ふと、自分の姿を見ると、これは、いわゆるアッパッパでは? ムームーでは? 昭和のおばちゃんの夏の定番のあれやないですか! 人間の行き着くところは同じか・・・・・・。シンプルな服ってそうよね。大昔の人もたぶんこんなような服着てはってんで、と自分を納得させています。 

7月☆日 

雨やら大雨やら続いて、いっこうに夏らしい気配がない。野菜がめっちゃ高くて、夏の楽しみの真っ赤なトマトも全然まだな感じ。元々曜日関係ない仕事の上に、このひたすら在宅生活で祝日のことなどまーったく忘れてたけど、世は連休らしく、なんで??? と見ると、どうやらオリンピックの開会式があるはずの日やったらしい。オリンピック、猛暑を心配してたけど、この大雨でも競技無理やったんちゃうん?感。さんざん言われてることやけど、極端な気候&災害の多い日本の真夏にオリンピックするんがそもそも無理ある。昔の東京オリンピックみたいに10月ならまだしも、真夏はなにをどう考えても無理やと思うねんけど、「快適な気候」みたいなこと言うて立候補してたんなんやったん、と思う。アメリカの人気スポーツと被らん日程ということでこの時期から動かされへんねんけど、世界中の国がなんでアメリカに合わせんならんねん、て、思わへんのかなー。 

そして、全国で豪雨被害も相次いでて、まったくそれどころちゃうやん、対策しっかりしてほしいと思うばかり。 

7月☆日 

天神祭。去年、初めてお祭りの本体や船渡御に参加して、知らんかった大阪のことをようさん体験できてめっちゃたのしかった。それで今年も絶対行くでと意気込んでてんけど、神事以外は延期ということで、去年の船の企画をしてくれはった高島幸次さんや誘ってくださった仲野徹さんからご連絡をいただき、毎年お弁当を用意してくださる[ミチノ・ル・トゥールビヨン]から今年の特別バージョンお弁当を宅配で送ってもらい、Zoomで遠隔天神祭会となりました。非公開の神事もYouTubeで公開したり、天満宮のみなさんもいろいろ工夫してくれてはって、それだけにいっそう天神祭行きたかったなあ、来年こそ、と思わずにはいられませんでした。Zoom会に参加された皆さんの自粛期間中のこととか近況とかいろいろうかがえて、そしてお弁当もやっぱり最高で、楽しい時間でした。

7月☆日 

「王様のブランチ」の出演の録画で、青山へ。「王様のブランチ」、関西では放送してないのですが、東京では(地方局でも結構放送されてます)もう25年も続いてる土曜の朝の情報番組で、本をしっかり紹介してくれる貴重なコーナーもずーっと続いてるんですね。出演させてもらうのは、3回目。1回目は『寝ても覚めても』のときの2010年、2回目は芥川賞受賞直後の2014年、6年ぶり3回目となんか甲子園みたいなあれやけど、3回も出られてとってもうれしい。それで毎回感心するのは、リポーターの若い女性たちが本好きで熱心に話を聞いてくれること。今回の齋藤明里さんも、『百年と一日』を丁寧に読み込んでくださって、大根のとれない町で大根を育てる話が気に入ってはるそうで、いろいろお話しできて楽しかったー! そしてめっちゃかわいいワンピース着てはったので、女子に「それかわいい」が久々に言えたのもときめきました。 

撮影のあいだ、コロナ対策で2メートル距離を取ってて、話すには不思議な距離感やよなーとあらためて思いつつ、わたしは今テレビ全然見てないから、テレビ番組のスタジオもこんな感じになったり工夫してるらしいと聞いて、どこの職場もほんとに大変やなあと。窓を開けたまま撮影してたので、近くの工事現場の音で中断したり、ずっと家で仕事をしてるわたしがうっかり忘れそうなことがいくつもあった。 

7月☆日 

ところで、「王様」を入力するときつい「おおさま」と打ってしまうんよね……。こんなこと書くと「作家やのに」と思われると思いますが、刷り込みというか、わかってるねんけどつい手が動いてしまう言葉がいくつかあって。「たいく」とかね。あと、大阪弁のせいで「七」って「しち」?「ひち」?ってなったり。 

そしてこういうの、英語とか文字を変換しない圏の人に説明するの難しいやろなーとか。もちろん、スペルを間違いやすい単語もあるねんけど。日本語を入力するのって、ローマ字で入力して→仮名で表示されて→さらにそれを漢字に変換する+しかも1回で正解とは限らない、という3段階かそれ以上の手間がかかってるわけで、アメリカの大学やと授業中って内容をノートに手書きよりもノートパソコンに打ち込んでる人が多かってんけど、日本語はそれめっちゃ難しいよな、と思う。 

7月☆日 

映画『スキャンダル』を観た。アメリカのごりごり保守系メディアのFOXの女性キャスターたちが、会長(じいさん)からひどいセクハラを受け、それでも社内では隠蔽が横行し、口外すると番組を外されたりひどいと解雇されるというような状況で、やっと訴え出た女性たちの話。女性キャスターは会長の趣味であからさまに「脚」で選ばれ、ボディコンのミニスカで、脚を強調するセットに座らされる。キャスターは全員、金髪美人の似たような外見。訴え出た、といっても、全米有数の巨大メディアで政治とのつながりも深いので、番組を降ろされた1人が周到に準備を重ねてやっと提訴にこぎつける。その過程で他にもセクハラを受けた社員やキャスターたちの存在がわかり(でもほとんどは示談で条件に守秘義務を入れられているので人に話すことができない)、現役でひどい目に遭っている女性たちが励まされていく過程に、なんとか勝ってほしいと思わずにはいられない。よかったのは、シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー演じるキャスターたちが、基本的には仲悪いのよね。FOXのキャスターだから元々フェミニズム的な女性の地位向上には否定的な立場で(ガールズデイに若い女の子を応援する特集を放送したニコール・キッドマン演じるキャスターはそれがきっかけで番組を降ろされる)、ライバルであり、仲も悪く、最後までほとんど話すこともない彼女たちが、それでも共通の屈辱的な経験に打ち勝つために描かれる「連帯」が、とてもリアルだった。これ、実話を元にしてて、シャーリーズ・セロンがプロデューサーになってるけど監督も脚本も男性で、アメリカではここまでしっかり描けるんやなあと。日本やとこういう話はまだまだ「よくあること」とか「女であることを利用して仕事をもらってたくせに」みたいなことを言われそう。 

7月☆日 

用事があって渋谷。駅を下りると、駅ビルの中の店とかあちこちに臨時休業や閉店してしまった店舗がある。自粛要請以来、住んでるところはむしろ人が増えてたりしたので近所だけ見てると実感がないけど、繁華街は相当に厳しくて、出てくる度に衝撃を受ける。それはそうやんな、東京の、あのどこに行っても人いっぱいで夜遅くまで店も道も人で埋まっててみたいな条件で成り立ってるんやもんな。家賃もめちゃめちゃ高いやろうし、飲食店は生ものを仕入れするのも量が読めなかったり割高になったりで難しいやろうし。渋谷のスクランブル交差点も、つい半年前までは真っ黒に見えるぐらい人がいっぱいで、それを動画撮影する外国人の観光客がいっぱいいたのに、こんな状態見たことないすかすかさ。東京は飲食店の営業時間短縮要請がまた始まるし、ほんまに、これからどうなっていくんやろうと思う。 

7月☆日 

そんな渋谷をうろうろし、おなか空いたし晩ごはん食べて帰ろと思って、センター街の[神座]へ。[神座]のラーメン、好きなんよねー。新宿にも渋谷にもあってありがたい。ちょうど会社勤めしてるときに周防町の交差点のとこにできて、昼休みに食べに行ったなあ。そして最近毎回食べてるのが、こんにゃく麺。こんなんあるんや、と思って、カロリー少ないのもあるけど、こんにゃくが好きなので(基本ぐにぐにした食感の食べ物が好き)食べてみたら、あっさりしててめっちゃ好みやった。[神座]も1席ずつ空けての営業やってんけど、早めの時間やったこともあり、店内は人はまばら。わたしのほかには3人が、だいぶ離れたところに座ってる。こんにゃく麺食べ始めたら、わたしの前に餃子が置かれ、つい反射的に「あれ? ありがとうございます」と言ってしまう。言い訳しますが、この数日前に行った中華屋さんで中国人のおばちゃんの店主さんが、やたらとおまけで食べ物を出してくれたという経験があり、それでうっかり「あ、なんか人も少ないしサービスかな」って思ってしまったんよね。そして、他の人めっちゃ離れたとこに座ってるし、3人しかおらんし、間違える状況ちゃうやん、ていうのもあったし。途端に、置いたお店の人が「えっ? あっ、すみません」と餃子を他のところへ持って行き、あ、そらそやんな、とめちゃめちゃ恐縮しました。「ありがとうございます」って言わんかったら恥ずかしくなかったのに、なんやったらなんも言わんと食べたらよかった、とか思いながら残りのラーメンをさっさと食べたのでした。そしてこの次の週にも渋谷に行く用事があったので、[神座]に寄り、こんにゃく麺と心残りだった餃子も食べました。ラーメンに入ってるチャーシューじゃないほうの豚肉の薄切りが好きなんよねー。白菜と豚の組み合わせって最強やんね。 

8月☆日 

梅雨明けほんまにくるん、と思ってたのに、いきなり暑い。近年の天候ってほんまこんなんばっかりやんな。快適な季節どこいったん。温暖化というのは、全体がほどよく暖かくなる(たとえば北極圏が住みやすくなる)的なことではまったくなく、極端に暑いか寒いかしかなくなる、と最初に聞いて「えー!!! 最悪やん!!」と思ったのはもう20年くらい前やと思うけど、ほんまにその通りになってきてるよな……。 

そしてやっぱりこの暑さでオリンピック、無理と思います。

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柴崎友香(しばさき・ともか) 1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/

権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/

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権田直博(ごんだ・なおひろ) 1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
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