大倉・成田主演作、行定監督「背徳感を表現するのは難しい」
「大倉くんは、すごく魅せる芝居ができる人なんですよ」
──成田くんがだんだんかわいく見えてくるにつれ、大倉くん(恭一)の気持ちが分かるようになるんですけどね。誕生日にワインもらった時の反応とか、成田くんが「耳かきやってあげましょうか」って膝枕してくるシーンとか。そういえばあのとき、大倉くんが読んでる本のチョイスで監督からお電話もらいましたよね(笑)。
ミルクマンさん、ああいうの詳しいだろうなと思って(笑)。結局『太陽がいっぱい』にしましたね。ゲイの青年が登場する小説を偶然にも読んでるのがいいよなぁ、と思って。作者パトリシア・ハイスミスの主人公リプリーのシリーズでも一番分かりやすいというか。
──ちょっとはお役に立てたかと(笑)。タイトルははっきり見えなかったけど、あ、これは河出文庫版だって。・・・それはともかく、大倉くんが素晴らしいですね。彼はもともと誇張した演技を一切しない、でも「自然な演技」を装ったような自然主義的演技もしない、そんな感じが僕は好ましかったんだけど、今回はそれがつつましやかに花開いたような。
僕もすごくそう思いますね。なんだろうな、トゥーマッチなところがまったくないんですよ。そもそも持ち合わせてない。関西人なのにね、なんかことさら何かを強調するということをしない人で、でもすごく魅せる芝居ができる人なんですよ。そこはアイドルなんです。
──なんたって色気がありますもんね。
色気がある。男のダンディズムというか、しかもかわいらしさも持ってて。アジアの俳優たちの良い感じというか、大袈裟じゃないけどちゃんと魅せるさりげない色気が良いなぁと。あと、なに考えてるのか判らない、ちょっと心に届かない感じがするんですよ。
「え~、そんなことないですよ~」って彼は言うんですけどね。だけど、そんなことあるだろうっていうか、全部伝わってこないよっていうか。こっちから届こうとしても心に届かせてくれないじゃん、って部分が色気に繋がってるような気がする。
──自然体でいて色気が漂う、ってのが確かにアジアン・スターかもですね。
しかもノーはないんですよ。これをやってくれ、って言ったら「分かりました。やってみます」なんですよね、すべてが。「それはこうだと思います」って意見もしないし、疑問を持たないですし、すべてにおいて言った通り。やるって言った範疇のなかですべてやってきますね。それがすごいですね。
──そんな恭一という役のなかで、自分の中の揺れを自分から求めるようにさらけ出してしまうシーンが後半にある。
途中でゲイクラブに行くシーンですよね。これは脚本家・堀泉杏が仕掛けてきているところなんですけど、唯一、プロデューサーたちも「これは要る?」ってシーンだった。なんでゲイクラブに行ったのかって訊かれて、彼女は一切答えなかったんですよ。
「なんで行ったのかが必要ですか? 私ずっと思ってるんですけど、映画って何故そうしたのかが分かるシーンが多すぎないですか?」とか「その振り、必要ですか?この映画は振りを取っ払っていい映画じゃないの?」って。それを言われてしまうといろいろなものが愚問になるんですね。
──まさにあのゲイクラブのシーン以降の展開が、この映画を決定的に傑作たらしめたと思うんですよ。あの場所にヘテロであると自認する恭一が自ら足を運ぶ行為を選ぶ。
「このシーンは絶対にあったほうがいいです」って堀泉は言うわけ。この涙は何なのか、というのは説明もしない。ただひとつ、次の展開として待っているのは、恭一はたまきと婚約をするということなんです。
これは僕にとってドラマを作るという意味では画期的な手法だな、と。そこから演者・演出家それぞれが考える基点になって後半に突入していく。これからはこういうのアリだなって。
──しかも恭一はたまきと肉体関係になってから、そのゲイバーにおっかなびっくり足を踏み入れるじゃないですか。で、踏み入れてはみたものの、あからさまで正直な男性同士の駆け引きに揉まれて泣き崩れてしまうという。
人生の折り合いがつかないことってあるんですよね。男同士の恋愛にためらい、戸惑っている彼がそこから何か発見し始めている、自分の心情にぶつかっているというところに、そういう表現があるのかぁって僕は思って。
まあ、映画としてはすんなり見えるんだけど、こっちは作る身だからね。「これはどういうシーンなのか、何のためにあるのかというのは必要ない」という堀泉の答えはすごいなと、脚本を読んだときにもっとも思ったところですね。
『窮鼠はチーズの夢を見る』
2020年9月11日(金)公開
監督:行定勲
脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」)
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
配給:ファントム・フィルム
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