大倉・成田主演作、行定監督「背徳感を表現するのは難しい」
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『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』、2020年夏に公開された『劇場』などを撮り、「恋愛映画の名手」とも呼ばれる行定勲監督
「別れも告げられないような人間の優しさは、やっぱり罪」
──ヘテロだと何の疑いもなく思ってた男性が、俺のなかでいったい何が起こっているんだと気づき始める。例えばケンカして今ヶ瀬が外に出て行ったあと、恭一がひとり帰りを待って今ヶ瀬の枕に顔を寄せてベッドに寝ているとか。あの枕には今ヶ瀬の匂いが染みついていると思うんですよ。この映画、匂いフェチ的なところが多分にあって、成田くんの煙草の香りとか、恭一のパンツの匂いとか、彼がほかの女とヤってきた匂いを嗅ぎつけるとか、お土産のラ・フランスとか。そういうのが淫靡でいいですね(笑)。
そうねぇ(笑)。
──まあ、エロティックなのは監督の普通ではあるんだけど(笑)。ゲイクラブへ行ってからの恭一の感情の流れは極めて残酷ですね。でもなぜかラストは甘美じゃないですか。しかも爽やかでさえあるという。
爽やかですよね(笑)。
──めちゃくちゃ人傷つけてるのに爽やかなんですよ(笑)。
僕はあの男の気持ちがずっと判るんです。最初のほうのシーンで今ヶ瀬に「(浮気相手と)今別れて来ちゃえば?」って言われて、「いやいや、突然そう言うこと言われてみろよ。彼女が傷つくだろう?」ってのたまうような、中途半端なやさしさを持ってる人間の方がよほど残酷なんですよ。
叶えられないのが分かってるのに期待を持たせる、ってのが一番罪な奴なんですね。前作の『劇場』はこれと表裏一体なんです。あの作品は、彼女に期待をさせるだけさせて、なにも成し遂げられない男の話なんですよ。彼女がズタズタボロボロになったのに「俺、頑張ってます」じゃねぇだろう、っていう映画。あれを嫌いだって言う人がいて当たり前なんですよ。それは自分を見るようで嫌いなんでしょ、その人は。大概の人がそうやって叶えられないから。
──うん、それは分かります。でも、それも恋愛依存して生きるものの宿命ですしね。僕は、監督も大好きな成瀬巳喜男の『浮雲』へのトリビュート三部作として、『ナラタージュ』『劇場』『窮鼠~』を観てしまいます。残酷極まる、でも甘美な恋愛劇。
自分の舵取りひとつでちゃんと相手を幸せにもできるし、って部分があるんですよね。でも、恋愛の一番マズイやり方は、僕もそこはすごく反省しますけど、中途半端で煮え切らなくて別れも告げられないような人間のやさしさは、やっぱり罪なんですよ。一番、罪。そこをラストで提示したと受け取って欲しいところが僕の願望としてはあるんです。
──いつも今ヶ瀬が、ひとり寂しく煙草吸ってた止まり木のような椅子に、なんか吹っ切れたような恭一が座っている。前のシーンで今ヶ瀬は、別の男に抱かれながらも恭一を想って・・・。
今ヶ瀬は明らかに傷ついて泣いているのにね。それぐらい忘れられないって感情にさせておいて、恭一はものすごく清廉潔白なピュアな人間としてその椅子に座っていますしね(笑)。なんじゃこりゃ、って面白いんですよ、僕は。なんなの、この爽やかさ。しかも半野喜弘さんの音楽がまたね~。カッコいいじゃないですか、あの曲。
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──ここぞ、というときにタッグされてる気もする半野さんですが、今回も音楽がきりりと締めてますよね。決してロマンティック、センティメンタルに流れずに。
実は最初、別の作曲家さんに頼んだんです。でも解釈が合わなくて半野さんに話を持ちかけた。
いきさつを電話で説明したら、「すべて行定さんの言っていることは分かります」って3日くらいで音源を送りつけてくれたんだけど、「なにこれ!なんでこんなにすぐにできるの?」というくらい素晴らしかった。
──話が戻るのですが、ゲイクラブのシーンから後は、実は映画のオリジナルですよね。まあ監督の作品は原作そのままなほうが圧倒的に少ないから、そのこと自体は珍しくないけれど、あのシーン以降の展開あってこそ大傑作になったのだと思います。それは脚本の堀泉杏さんのすごさでもあるんですが。
BLとかLGBTQって言葉を使った瞬間にジャンル映画にされちゃって、色眼鏡で見る人たちがいるでしょ。それは避けたいんだけれど、この映画ならできる。
堀泉に「女たちが男2人の世界に女として対抗しようと介在する。その流れのなかで、男と男の極北を感じさせたい。そのために、残虐な部分というか、人を傷つけてでもこっちの道を選ぶ、っていう展開にしたいんだ」と言われて。で、初稿まで作ったんですが、最初は海に行くところで終わっていたんですよ。
──ありゃ、それはずいぶん早く終わっちゃいますが。
でもそこから1年くらい考えて、出した答えがあれなんですね。2人が再会する話じゃなく、あの海を起点として実は2人がもう離れられない存在になっている、ってところを見せきれるかどうか、それによってこの映画の評価も変わる、ってことすら堀泉は言っていたのね。
僕はそこが秀逸だと思ったんですよ。原作者の水城せとなさんも映画を気に入ってくれていた。水城さんの原作がなければそもそもここにたどり着けなかったわけだし、僕はベストな終わり方だと思います。
『窮鼠はチーズの夢を見る』
2020年9月11日(金)公開
監督:行定勲
脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」)
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
配給:ファントム・フィルム
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