大倉・成田主演作、行定監督「背徳感を表現するのは難しい」

『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』、2020年夏に公開された『劇場』などを撮り、「恋愛映画の名手」とも呼ばれる行定勲監督
「2人の恋愛には、嘘を介在させる意味がない」
──ラストはもう、インモラルという垣根さえ越える純愛というか・・・恭一以外はズタボロで(笑)。
やっぱり、背徳感がね。背徳感を表現するってなかなか難しいですよね。不倫とかでそれを表現するのは常套手段で誰でも分かるだろうけど、あの2人の背徳感を作るのはなかなか。
そもそも受け入れられるか受け入れられないか、というところにいた人間だから、明確に「女より男を」と思うようになっちゃってるのは、かなりのショックですよね・・・あれはどう思うんだろう、女性としては。
──しかも、たまきとは婚約までしてからですよね。恭一自身のジェンダー観は揺らぎに揺らいで、ストーカー化した今ヶ瀬と一悶着あり、「やっぱりお前は受け入れられない」とかなってからも、たまきが帰ってから今ヶ瀬を部屋に呼びいれて、今度は恭一がタチ(編集部注:セックスでリードする側)になる。あの展開はすごいですね。残酷極まりない。
脚本家はそのセックスは書いてなかったんですよ。シーンはその事後にしよう、と。それでも残酷さは際立っていると思うんだけど、俺が足したいって言ったんです。「どう思う?」って俺が聞いたら堀泉は「だったらタチですよ」って。「前半ネコ(編集部注:セックスで受け身側)で、後半タチにしましょう」って。
──恭一は自分はヘテロだと信じてるわけだから、最初今ヶ瀬と肉体交渉するときはネコになるしかないですよね。だって勃たないもの(笑)。でも、そっちの方に傾いてしまったら、精神的にも肉体的にも今ヶ瀬に欲望を覚えるようになる。それは具体的なセックス・シーンあってこそ理解できるもので。
やっぱり、男同士がまぐわうというのは非常に根源的なものに感じるんですよ、なぜか。男女がまぐわう姿というのはどこか嘘が介在する時もあるというか。
無防備に異性を傷つけちゃう可能性もあるし、本当にそういう感情にたどり着いてなくても性欲を満たすだけのセックスもありますからね。
──あはは、恭一みたいな。
(笑)。でも男と男のセックスには嘘がないと感じてたんですよ。欲望という剥き出しの感覚をさらけ出すとすると、男と女のほうが異者であることの感情がどこか邪魔して、どうしても嘘/本当というところでいうなら嘘が介在してしまう。でも、あの2人の恋愛には、もはや嘘を介在させる意味がない。そういうところまでいけたら、感じられたらいいなぁと、自分のなかでね。
──観客がどう感じるかよりもまず、ヘテロセクシュアルである監督がまず、どう感じられるかだと。
そう、問題は自分のなかで感じられるかどうかだし、何か感情が湧き起こらないならそのシーンがあっても意味がないし、そんな画があってもしょうがない。だから僕のなかではいろんな感情が渦巻く映画ではあるんですよね、観るたびに。観ながら感じるというか。

──それは僕にとっても同じですよ。恭一が自身のジェンダー感を揺さぶられ、決心を追いつめられる終盤はヘテロだからこその煩悶だし、僕と同じくヘテロの観客もきっと根源から自らのジェンダー観を揺さぶられるに違いない。・・・ところでジャン・コクトーの映画『オルフェ』(1950年)が出てきますよね。監督のコクトーと主演のジャン・マレーは、実は恋人同士だったということを考えると、実に意味深な作品ですが。
そうなんですよ。なんでコクトーにしたかというと、昔、僕が降板した映画があったんです。それに香港のレスリー・チャンをキャスティングしようとしたのね。華僑のカメラマンの役で、ベトナム戦争の流れからタイにずっと在住してるという。
とっくに死んでるはずの人間なのに、20年後に現れたときに顔がぜんぜん変わってない。要するに、ちょっと悪魔の側にいるような齢を取らない美しい男、っていう裏設定にしたんですよ。
──ほお! それは初めて聞きました。
で、ワダエミさんの紹介で香港へ会いに行ったんですよ。忘れもしない、僕は3時間くらい、ホテルのスイートルームでずっとレスリーと向かい合って口説いたんです。そのときのレスリーの表情がすごくナイーブで。彼はゲイじゃないですか。その役もおそらくゲイであって、そういう生々しさを出すかどうかで悩んでいる、と。
存在としてはジャン・コクトーのような感じで、って言ったら、「僕は『オルフェ』が好きなんだ」とレスリーが言ったのね。「何が好きかって言うと、やっぱり犠牲愛なんだよ。あの犠牲心というのがとても僕の考え方に似ている。結局叶わなくていいんだ、っていう気持ちにすごく似ているんだ」と。
──その企画を想定すると、たぶん彼が自殺するたった数年前のことですよね。
その映画を僕が降りちゃったもんだからレスリーの出演自体消えちゃったんだけど。でも、そのときの彼の佇まいというのが、僕より全然年上なのに少年のようでもあり、今回、今ヶ瀬がやってるような、椅子で足を組んだりとか、膝を抱え込んだりするような、ちょっと寂しさがあるんですよ。
あの寂しさの一端を成田凌に感じさせられたらいいなぁと言うのが僕のなかにあって。実はそれが理由でコクトーにしようと決めてたんですね。
──今、話をお聞きして、なんとなくレスリーがあの今ヶ瀬とイメージとして重なりますね。
あの椅子に座っている感じというのは、それは脚本に書いていたんだけど。ああ、レスリーみたいになるといいなぁ、とちょっと思った。レスリーって寂しげなんですよね、常にね。黒目がちで、声がちっちゃくて聞こえない。なんだこの人、映画とは全然違うなと思って。でも、なんかすごい人でしたよ、オーラがあって。
──さっきからたびたび椅子の話を出してますが、あの椅子って原作にないファクターですよね。小道具は巧みにリレー要員として用いられていて、黄色い灰皿であるとか、ピンクのジッポーは原作にもあるんですけど。あの椅子に真っ暗ななかで、止まり木に留まった鳥みたいに座っている今ヶ瀬の佇まいが、観る者には強烈に印象づけられます。
あの椅子に関しては脚本家がもともと書いていて。ただ、その位置が重要だなと思ったんですよ。どこに置くかで、存在感がありすぎてもいけないし。でも捨て椅子なんですね。
前の家では機能していたかもしれないけど、この家に来たら機能しなくなった椅子に居場所を求めて今ヶ瀬が留まってる。本当に狭い場所が彼の居場所だったって言う。なんかそういうことは感じていましたよね。
──それが今ヶ瀬の心の寂しさというか、もっと愛を判ってもらいたいけど、今の彼にそこまで要求出来ないという逡巡そのものを表現していますよね。今ヶ瀬と恭一のあいだの時間に、たまきが座るというのもとても意味がある。
あれは特注で作ったんですよ、職人の人に。ハイチェアーだけど、不自然な高さにしたいって。あんまりないような高さなんで、ああいうのが効果的かなぁなんて思っていました。
『窮鼠はチーズの夢を見る』
2020年9月11日(金)公開
監督:行定勲
脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」)
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
配給:ファントム・フィルム
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