稲垣と二階堂の『ばるぼら』、「リアルではなく摩訶不思議に」
漫画家・手塚治虫の実子である手塚眞監督が、名作のひとつ『ばるぼら』(1973年~1974年『ビッグコミック』連載)を映画化し、11月20日に公開。破滅への道をたどる流行作家・美倉洋介を稲垣吾郎、退廃的な少女ばるぼらを二階堂ふみが演じる。
名声を得ながらもかつての才能が枯渇してしまった美倉が、ばるばらと出会い創造力をかき立てられていくが、思わぬ結末へと導かれてゆく。現実と妄想、不可思議な世界が共存し、映像化不可能といわれた同作とあって、発案から実現するまでは5年以上の歳月を要したという手塚監督。この作品への思いなどを大阪で訊いた。
取材・文/ミルクマン斉藤
「シンプルなラブストーリーで、セクシーな映画を作りたいと思った」
──原作は1970年代初頭の新宿の、騒乱とフーテンがまだ残っている時代が舞台ですね。でもこの映画は時代背景をわざと混濁したような形に成されているように思うのですが。
あの時代というのは格差社会が広がってきて、政治的な不安定さ、住みづらさ、生きづらさが高まってきていたんです。高度経済成長が停滞しはじめて、歪みが表れはじめたとき。
そうしたニュアンスが、閉塞的な雰囲気のこの数年間とすごく似てる。ですので、無理に70年代に寄せなくてもいいなと思ったんです。フーテンはいませんけど、ホームレスとかネットカフェ難民は珍しくありません。そこで最初は、現代にそのまま置き換えてもいいんじゃないかと思ったんです。
ただ、この原作は一種の寓話。だからあまり時代を限定するよりは、いつの時代か分からないようにしておいた方がテーマが生きてくるんじゃないかと思ったんです。現在の新宿で実際にロケしているんですけれども、完成させた映画のなかではちょっと違う世界にしているという感じですね。
──お父さまである手塚治虫さんの大人コミック系列の中で『ばるぼら』を選ばれたのは、そうした時代的な共通性を見出されたからなんですか?
別に手塚治虫の作品のなかから何かを選ぼうという企画ではなかったんです。単純に、次に自分が何をやろうかと考えたときに、なるべくシンプルな大人のラブストーリーがやりたいと。でも自分のなかでは不思議な味付けもしたいし、できればとてもセクシーな映画を作りたいと思ったんですね。
そうしたら『ばるぼら』がぴったりだったという。ですから偶然選んだんですけど、結果から言うとこれを選んで良かったと思いますね。今の時代に丁度いいという感じなんで。
──それほど変更を加えなくても、核となる部分はそのまま今でも使える、みたいな。
うん、それともうひとつ、「今度『ばるぼら』やるんだよ」って言ったときのみなさんの興味の持たれ方が、たとえば『ブラック・ジャック』やるんだよというよりも強い好奇心を得られる感じがしたんですね。だから良かったのかなと思っています。
──ちなみにタイトルなんですが、英字で「BARBARA」と出ますよね。それではあまりに当たり前で普通であって、お父さまなりのもじりというか、音感の面白さが削がれているように感じてしまったのですが・・・。
実は数十年前から原作漫画がヨーロッパで出版されているんですね。それが「BARBARA(バーバラ)」という題名なんです。今回海外からもプロデューサーが参加しているので、今さら「ばるぼら」という風に正してもみんなピンとこないんじゃないかと思って、ヨーロッパではそういう風にしました。
『鉄腕アトム』が外国に行くと『アストロボーイ』になるのと同じで、『ばるぼら』も向こうでは『バーバラ』って普通の名前になっちゃってる。『ばるぼら』っていう、名前なんだかよく分からない変な響きのニュアンスはなくなってしまうのは、残念なんですけれども。
──で、そのミステリアスなキャラクターを演じるのが二階堂ふみさんなんですけど、イメージとしてはどんぴしゃですよね。
そう思っていたんですけど、企画が始まった5年前には彼女はまだ未成年だったので、候補にはいませんでした。いろんな俳優さんに当たったんですけど『ばるぼら』をできる自信がないと断られて、決まらないまま何年も経ってしまって、そのうち彼女が成人に達して、かなりセクシャルな役をやるようになりましたんで、声をかけさせていただきました。
難役ですし、セクシャルな場面もあるんですけど、彼女はすぐ演りたいと。おそらく手塚治虫の原作というのにリスペクトがあり、それを僕が監督するということがあり、クリストファー・ドイルさんの撮影も決まってましたから、そういう顔ぶれのなかに加わってみたいと思ってもらえたんではないかと。
『ばるぼら』
2020年11月20日(金)公開
監督:手塚眞
原作:手塚治虫『ばるぼら』
撮影監督:クリストファー・ドイル
出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静、美波、渡辺えりほか
関西の上映劇場:シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、なんばパークスシネマ、京都シネマ、MOVIXあまがさき、ほか
©2019『ばるぼら』製作委員会
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