世界が注目する大阪発の映画祭、濃厚すぎる作品紹介
暉峻「台湾映画の枠組みから外れた作品が今年はそろった」
──OAFFでは熱狂的ファンが多い、香港や台湾映画はどうでしょうか。なんたってオープニング作品がアン・ホイ(1970年代後半から80年代にかけての、いわゆる「香港ニューウェイヴ」の代表的監督)についてのドキュメンタリー『映画をつづける』だという。
やっぱりこの1年間、みんなにとっていろいろ辛い日々だったと思うし、自分が仕事を続けるのか続けないのかみたいなことを立ち止まって悩んだ人も多いんじゃないかと思うんですけど、そんな人たちがこの映画を観ると絶対に泣けます。
アン・ホイに興味がある人が観れば、それはそれで興味深いのはもちろんですけど、この映画は単なるメイキングものとは全然違う。これ自体が一種の人生論みたいになってる映画で、今回のオープニングを務めるに相応しいなと。
ひとりの作家についてのドキュメンタリー映画が映画祭のオープニングというのもなかなか異例だと思うんですが、今年の幕を開けるにはこれが絶好だろうと。人々に勇気を与える映画ですね。
──香港ではアダム・ウォンの『狂舞派3』がありますね。OAFF2014年で『狂舞派』が上映されてますけど『2』はあるんですか?
誰でもそう思いますよね(笑)。これは映画を見てもらったら『2』がどこに行ったかが分かります。
──なるほど(笑)。ジョニー・トーの『高海抜の恋』(OAFF2012で上映。原題は「高海拔之戀II」)みたいな趣向かな?(笑)
OAFFでの香港映画の紹介は割と、香港ローカルなネタって言うんですかね、中国全土に向けて作るのが今の香港映画のメインストリームではあるんですけど、それはちょっと置いといて、香港の地元の映画好きが好むものを取り上げるのが特徴だと思います。それは今年もほぼそう言えますね。
──オムニバス『十年』(OAFF2016で上映。後に劇場公開)の監督のひとり、クォック・ジョン監督の新作もありますね。
『夜番』ですね。短編ですけれど、そこそこの長さ。これは結構危険なネタで、要するに夜だけ勤務してるタクシーの運転手の話なんですよ。これを演じているのは本業は役者じゃなくて、香港の区議会議員なんですね。
ちょっと変わり種として知られている人らしくて元はタクシー運転手をやってたらしい。タクシー運転手が夜の街を流して、いろんな客を乗せたりしている間に、警察が民主化デモをやってる人たちに威圧したりしてるエリアに入っていく。
別に政治的なことを訴えるような映画ではないんですけど、かなり生々しい現在の香港を映した映画ですね。この映画は一応「日本初上映」ということになっていますけれども、実際のところ台湾でしかやってません。
──『手巻き煙草』も香港映画ファンは観たい人が多いと思いますね。金馬奨を席巻しましたから。
OAFFは香港政府の新人監督育成計画作品はほとんどやってるんです。去年の『私のプリンス・エドワード』もそうだったし、その前だと『淪落の人』もそうだし。そんな一連の補助金の対象になったのが、今回だと『エリサの日』と『手巻き煙草』ですね。
これらが面白いのは香港政府マネーが入ることによって中国マーケットを気にせずに作れるっていう皮肉な状況が現れてるんです。どっちも香港ローカルな、多分中国で公開されることはないかなというような作品ですね。
──あと、台湾映画では『逃出立法院』がもう楽しみで仕方なくて(笑)。
これはもう、ミルクマンさん絶対に好きな映画です。
──このワン・イーファンって監督、去年の『伏魔殿』がワケ分かんないんだけど圧倒的にパワフルで。僕のなかでは断トツで去年の最優秀短編賞なんですよ。
ホントすごいですよね。あれも去年見つけられたのは、自分でも快挙中の快挙だと思ってます。
──あのテンションのまま長編を作ったらどうなるんだろう、それをやってのけたら大したもんだ、って観た後から言いまくってましたけど(笑)。
いやぁ、あのテンションのまま作ってるんですよ、この長編(笑)。立法院というのは向こうの国会のことなんで、国会から逃げ出す話なんですね。
──しかもゾンビ映画?
一応ゾンビものとして作っているんですけど、これは完全にコロナ時代を予見したような映画で。感染テーマでもあるんですね。これはミルクマンさんなら2回見てもいいくらいです。
──台湾系では奥原浩史の『ホテル・アイリス』もありますね。僕の大好きな小川洋子が原作。
ちょっと変わったパターンで、日本人の監督が撮った台湾映画。日本との合作という形にはなってますが、ほとんど金門島で撮っていて永瀬正敏とか菜葉菜とか出てる。今年は台湾映画の括りがちょっと面白いんです。
新しい枠組みが提示できる年だなと。あとで話しますが中国の監督も撮ってれば、こうして日本人監督も撮ってるっていう。一方で黄(ホアン)インイクって台湾人監督が西表島で撮った映画『緑の牢獄』もある。
──前もこの監督やりませんでした?
うん、OAFF2017で『海の彼方』をやりました。彼は台湾人なんですけれども多分沖縄にずっと住んでいて、あの辺のエリアの歴史とか、台湾との関係とかに関心が強い人なんだろうけど、今回もそう。
西表島にいるおばあさんが主人公で、この人は台湾人。むかし西表島の炭鉱が栄えていた頃に炭鉱労働者たちと共に台湾から渡ってきた人なんですけど、そういう人がいることも日本のほとんどの人は知らないと思うし。
だからいろんな意味で、これまでの台湾映画の枠組みとかイメージからちょっと外れたというか、枠組みを広げるような映画ばかりが集まっていると言える気がします。
──この黄インイク監督は短編にも入ってますね。
その短編『草原の焔』は『緑の牢獄』のスピンオフみたいな感じなんです。短編だけ見ると、なんだこりゃと思っちゃうかもだけど。
だからあくまでも『緑の牢獄』を観た後に『草原の焔』は見てもらうのがいいんですけどね。『緑の牢獄』は一応ドキュメンタリーなんですけど、一部フィクションの演出が混じるんですよ。そのフィクション部分を拡大したのが『草原の焔』になるんです。
『第16回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2021)』
期間:2021年3月5日(金)〜14日(日)
会場:梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホールほか
※ABCホールは映画祭公式サイトもしくは当日会場にて、それ以外は各劇場の公式サイト・窓口にて
料金:一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円
電話:06−4301−3092(大阪アジアン映画祭運営事務局)
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