世界が注目する大阪発の映画祭、濃厚すぎる作品紹介
暉峻「自分が見つけたことを密かに自慢したい韓国作品」
──インディペンデントを中心に、韓国映画も毎回優れた作品が集まるOAFFですが、今回はどうですか?
まず、クロージングの『アジアの天使』は石井裕也の作品なんですが、ほとんど韓国映画と言ってもいいような作りなんですよ。国籍はあくまでも日本映画なんですけれども、全編韓国ロケだし、スタッフ・キャストも95%は韓国ってくらい。
──ほお、そうなんですか。池松壮亮、オダギリジョーに加え、チェ・ヒソの名がありますね。言語はどうなんです?
言語は韓国語と英語。
──え、そうなんですか! チェ・ヒソは『金子文子と朴烈』(OAFF2018で上映、その後劇場公開)の日本語が完璧だったもんで。
僕もてっきり日本語が出来るから起用されているのかと思ったら、そうじゃないですね。ミルクマンさんなんかは、韓国映画っていうとソウル・オリンピックの頃、イ・チャンホとかペ・チャンホの時代から知ってますよね?
──もちろん。観まくりましたから。
この映画の画面の作りって、あの時代の韓国映画を見ているような感じなんですよ。現代の日本映画を見ていることを忘れるような。それは多分意図的だと思うんですね。
「石井裕也と韓国」っていう意外なフック、プラスOAFFにとってはチェ・ヒソがヒロインをやっているという点でもクロージングでやるのにハマリがいい映画だったんで。これがワールドプレミアできるというのはすごく幸運でしたね。
──コンペティション部門にも韓国映画は2本ありますね。
まず『君をこえて』、これすごく変な映画ですから楽しみにしてくださいね。それと『生まれてよかった』が入っていて、あと、特別注視部門の方に『三姉妹』というのがあります。
ムン・ソリが三姉妹の一人を演じてるし、かつプロデュースにも加わっているという、かなり気合いが入った映画で。韓国映画はコンペにしろ他部門にしろ、全然ロードショウでは入ってこないタイプの作品になってますね。
去年の『チャンシルさんには福が多いね』なんかもあの時点ではまさかロードショウされるとは思わなかったんですけど、今回もそうなってくれればいいなと思っているんですけどね。
──あと短編王国韓国ですからそっちも見逃せない。
今回は『イニョンのカムコーダー』が入ってますが、ほかの人にはちょっと見つけられなかっただろうというような、自分が見つけたことを密かに自慢したい作品(笑)。
これもLGBT系の映画で女性同士の同性愛を扱っているんですけど。光州のフィルム・コミッションが制作をバックアップしていて、それで僕は知ったんですね。監督もまだ学生らしいし知られてない人ですけど、ちょっとピックアップしておこうという。
──どこの映画祭も多かれ少なかれそうなんですけど、とりわけOAFFはずいぶん早くからLGBT系の映画をピックアップしてますよね。特にここ数年、シスターフッド映画の大傑作がずらずら並んで壮観です。まあ、暉峻さんの趣味かな、とも思うんですけど(笑)。
趣味とかじゃないですけど・・・まあ、そうかな(笑)。だったら今年は『姉姉妹妹』っていう、タイトルを見ただけでシスターフッドものだと判るものなんですけど。
一応ベトナムで封切られてるんですけど、かなり危険な題材で、危険な描き方をしていて。ベトナムってかなり検閲が厳しいと聞いているんですけれども、よく公開できたなぁと。
一方でこれはレズビアンもの兼ちょっとスリラーっぽいジャンル映画になっている。要するに監督があまりアート系に押し込めようとしてないんですね。ちゃんと商業映画という形のなかで自分の作家性を打ち出そうとしてるのが明らかに分かるんです。
──さきほど台湾映画を話してるときに、わざとスルーした2作品『人として生まれる』と『愛・殺』もそれっぽいですね。
『人として生まれる』は2020年にやった『メタモルフォシス』にちょっと近いですね。半陰陽的なものを扱った、あれの台湾版みたいな感じで。
男として生まれてきたんだけれども何故か生理が来て気がつくみたいな。更に心理的にも女としての方が居心地がいい、みたいな主人公なんですよ。
──かなりヒネってますね。
この監督リリー・ニーってのは新人なんですけど、これまた変わり種で。台湾映画の新しいパターンだと思うんですけど、この人はなんと中国人なんですよ、台湾人や香港人が出稼ぎで中国映画界で撮るというのは今までもよくありましたけど、これは逆パターンなんです。
このネタを彼女は映画化したくて、最初は中国での制作の道を探してたんですけど、検閲があるから脚本の段階でまず通らない。で、諦めてたところに台湾の会社から「台湾でならこれを作れる」という話が来て、台湾映画界でデビューすることになったという。これは世界初上映なんで期待してもらうといいですね。
──もう一本の『愛・殺』のゼロ・チョウという監督、聞き覚えははあるんですけど。
元々こういう方面の映画を作るので有名な女性監督ですね。だいぶ昔からレズビアンであることをカミングアウトしていて。日本でも公開された『Tattoo-刺青−』(2007)や『花様 たゆたう想い』(2012)にはそこそこスターも出ています。
個人的に言うと、これまでのゼロ・チョウはそれほど評価してなかったんですけど、今回はひとつレベルアップしたというか。自分でもあまり期待しないで見始めたんですけれども、こんなのも作れるんだという驚きがありましたね。
『タリン・ブラックナイト映画祭』という最近頭角を現してきてる映画祭があるんですが、そこでも上映された作品ですね。
──ベトナム映画に戻りますと、『走れロム』がありますね。
ここ1~2年のベトナム映画界で最大の話題作と言っていいくらいの作品ですね。2019年の釜山映画祭の『ニューカレンツ』っていう、若手監督を対象にしたコンペ部門でグランプリを獲って一挙に名を轟かしたんですけれど、実はベトナムの検閲を通さずに釜山に出しちゃっていたんですよ(笑)。
韓国から監督が凱旋帰国したら、賞金をもらったばかりなのにそこで罰金を食らって全部持っていかれて、その後ベトナムで公開しようとしてもなかなか公開できなくて。
ついに2020年、検閲対策して内容を少し変えたもので公開したら何故かこれがバカヒットしたんですね。だから今、国内でも海外でもすごい名声を築いた形になっているという。
──ベトナム映画って数年前から、なんかやたら垢抜けてきたというか。とりわけOAFFで上映された『サイゴン・クチュール』(OAFF2018で上映、後に劇場公開)や『ハイ・フォン:ママは元ギャング』(OAFF2019で上映、後にNetflixに)などが顕著ですが。
あぁ、そうですね。でもこれは今までOAFFで紹介していたようなタイプの垢抜け方とはちょっと違って、むしろわざと垢抜けないようにしてるっていう感もありますね。
ベトナムでは『エジソンの卒業』も必見の短編です。かなり片田舎の村が舞台なんですけど、そこの村の人たちは頭からみんな木が生えているという設定で(笑)、通常思いつけないようなネタで構想されていて、素晴らしいですね、これは。
『第16回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2021)』
期間:2021年3月5日(金)〜14日(日)
会場:梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホールほか
※ABCホールは映画祭公式サイトもしくは当日会場にて、それ以外は各劇場の公式サイト・窓口にて
料金:一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円
電話:06−4301−3092(大阪アジアン映画祭運営事務局)
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