世界が注目する大阪発の映画祭、濃厚すぎる作品紹介
暉峻「今年の特徴は、コロナの時代を受けて作られた作品」
──そろそろ日本映画の話もしたいと思うんですが、ミャンマーの難民家族を扱った『僕の帰る場所』(OAFF2018で上映、後に劇場公開)の藤元明緒監督の新作『海辺の彼女たち』は訪日ベトナム人女性の物語みたいですね。
これ、素晴らしいですね。最近話題になってる、いつの間にか不法労働者になっちゃうような3人のベトナム人女性を描いているんですけど、どう見ても本物の不法労働者に見えるんですね。
でも実際はこの人たちって、別のインタビューとかの映像で見ると普通に華やかなベトナム上流階級っぽい、育ちが良さそうな人たちで。それをこれだけ日本で泥まみれにして労働者っぽく見せる、その監督の演出力も凄いなと思いましたね。
──そういう意味では前作の『僕の帰る場所』の、行定勲監督曰く「是枝裕和超え」の素人演出力にも通じますね。
本当に藤元監督の演出力はただ者じゃないですね。常連さんでは『シネマ・ドリフター』ことリム・カーワイ監督の『カム・アンド・ゴー』もあります。自らがドリフターとして大阪の街に滞在し、またドリフターとして海外各地を放浪してきたリム・カーワイだけが作れる作品ですね。
演出力が光るという点で言えば、今泉力哉監督の『街の上で』も必見。東京の下北沢の一角を舞台に、各俳優と街そのものの宿す空気感だけで、2時間超の物語を一瞬も退屈する暇なく語りきります。
──面白いのは今年、中村祐太郎監督作が2本もあるんですよね。『岬の兄妹』などで俳優としては多少認知されたと思いますが、なんたって監督としての彼がいちばん面白い。
しかも今回、1本は監督自身からの応募で、1本はプロデューサーからの応募っていうのがね。本人からは『新しい風』の方が。これはあまり商業映画的な展開は考えずに作っていると思うので、とにかく今やりたいことを描くんだという。
一応配給の名前も入ってますけどOAFFで見逃すと当分見れないだろうと思います。で、もう1本の『スウィートビターキャンディ』の方はプロデューサーからの応募で、こっちはもうちょっとちゃんと劇場でロードショウすることを考えながら作ってる。
──小川あんが出てるんですね。
どっちの映画にも小川あんが出ていて、今年ちょっと小川あんイヤーなんですよ。この2本プラス、今年オンライン座っていうのを始めるんですけれど、そっちで配信する『レイのために』(OAFF2020上映)も小川あんなので、彼女の作品が3本も揃っているんですよ。なかなか彼女はいい役者ですねぇ。
──ブレイク間近な感じがしますよね。そういえば去年、いまおかしんじ監督が本来のフィールド以外のところでブレイクしたじゃないですか。『れいこいるか』(OAFF2020上映、後に劇場公開)で。
今年もいまおか監督は『にじいろトリップ』という新作のワールドプレミアを出してくれて。去年のあれとは全然違うんですよ。子ども映画的なノリがあるんです。子どもと大人の中間くらいの人が主人公なんだけど、いまおか監督はこういうのも作れるんだ、と新しい側面を感じますね。
──去年は『れいこいるか』と『アルプススタンドのはしの方』がOAFF上映後にスマッシュヒットして、知る人ぞ知る存在に近かったいまおか監督と城定秀夫監督が一気にその才能を知られちゃった。
今年も日本映画は幅広く集まりましたね。突然亡くなった佐々部清監督の遺作『大綱引の恋』は、単に遺作だからという理由で入っているのではなくて、日本映画の監督としては結構韓国と関係のある映画を撮ってきたじゃないですか。
──『チルソクの夏』(2003)でしたね。
とかね。日本と韓国の繋がりの中のスケールで物事を見るということもやってきた人で、この遺作もそうなんですよ。韓国で活躍していた知英がヒロインなんです。そういう点でもOAFFにふさわしいなと。
日本映画はそういうベテラン監督の映画もあるし、もう一方でほとんど知られてない新世代の映画もあるし。中村真夕の『4人のあいだで』もかなりの傑作です。
──ほお、これも新人監督の短編作品ですよね。
コロナの第一次緊急事態宣言が明けた直後くらいに作ってる映画で、あのときの空気感というんですかね、そういうのがすごく良く捉えられてて。
あ、そうそう、今回のOAFFの特徴として言えるのが、初めてコロナの時代に作られたとか、コロナの時代を受けてそのあと作られた作品がいくつか入り込んでるんですね。
そのひとつが『4人のあいだで』で、もう1本『守望』っていう中国映画の短編があります。でも現在、まだ製作真っ最中で、本当に上映に間に合うのかって長編があるんですよ。
──そりゃむちゃくちゃアクチュアルですね(笑)。
フィリピンの『こことよそ』って作品ですけど、完全にコロナ禍を踏まえて作られた映画なんです。フィリピンは日本よりはるかに厳しいロックダウンを敷いていて、例えば日用品や食料品を買いに行くのですら週に2回しか家から出ちゃいけないとか、すごい厳しい規制なんですね。
そうは言っても完全に映画業界も止まっているわけにいかないんで、一応政府側で撮影のガイドラインみたいなのが作られて。そんな厳しいガイドラインを遵守して作られた、もしかしたら第1号かもしれないという意味でも貴重な映画なんですね。
さすがにいろんな規制があるんで、そうそう人が大勢集まれないとか、かなり撮影は苦しげな感じもするんですけど、そうしたところも含めて今の時代の貴重な証言になってる映画です。
──制作のTBAスタジオは去年『愛について書く』がABCテレビ賞を撮って、関西ではTV放映もされた作品の制作会社ですよね。
そう、あの会社の新作なんですよ。その点でもちょっと期待してる人は多いんじゃないかなと思うんですけどね。昔からの老舗のメジャー・スタジオではなくて、新しいインディペンデント系の会社なんですよ。
そうなんだけど、すごく商業的に成功していて、新興インディーズ映画会社のなかでは最大成功者じゃないですかね。フィリピンの長編はもう1本、『金継ぎ』というのがありますけど、タイトルからも判るとおり日本ネタで日本が舞台。
あと短編の『エクスキューズミー、ミス、ミス、ミス』がすごくおもしろい。作られたのが2019年で、この2021年の映画祭に入れていいかどうか迷ったんですが、あまりにも出来映えが素晴らしいので。
──シンガポールからは『チョンバル・ソシアル・クラブ』というのがありますが、スチール見てもヘンですよね (笑)。
これも超お薦めの映画ですが、ちょっと何と例えればいいのか分からないんですけれど。新世代の監督ですけれども、超映画狂であることがあらゆる場面で分かります。
シンガポールは短編の『朝は遠いところで』もあります。これをワールドプレミアできるとは思っていなかったんですけど、すごい才能ですよ。最初の1ショット2ショットでこの監督はすごい、って判る。
そして、OAFFは新作のラインアップとしては劇場に全力を注ぐというのにブレはないんですけど、前に映画祭で上映した何本かを「大阪アジアン オンライン座」を初めてやろうと。今回台湾の初公開クラシック作品が2本入っているんですよね。
──これがまたメチャクチャ面白そうなんですよね。映画祭終了後、2日間限定で視聴できるという。
1本は『チマキ売り』という、いわゆる「台湾語映画」ってジャンルのやつで、その世界ではそこそこ映画史的名作と言われている作品なんですけれどね。
──台湾語映画はOAFF2014でも小特集が組まれましたが、あれもプログラム・ピクチャー的なB級感あふれていたので今回も楽しみですね。
で、もう1本は『関公VSエイリアン』(笑)。
──もうすでにTwitterではちょっとバズってますよ(笑)。いわゆる秘宝系とかで。
円谷プロのファンとかね。この映画って台湾映画史に詳しい人でもほとんど知らなかった作品で、何故か香港のパン・ホーチョン監督がこれを見つけて、これはすごいっていうので権利を買い取ってデジタル修復して今回披露するみたいな。
──あははは、パン・ホーチョンらしい!
一応デジタルリマスター版海外初上映ですけど、デジタルリマスターしても画面が全然綺麗になってないっていうね(笑)。あまりの原盤の痛みの激しさに。でも下手に完璧にリマスターしてしまうと魅力が失われると思うんで、それはそれでお楽しみに、というところです。
◆
「梅田ブルク7」「ABCホール」「シネ・リーブル梅田」の3会場ほかにて3月5日〜14日まで開催。一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円。「大阪アジアン・オンライン座」は2月28日から3月20日まで、作品により料金は異なり、500円〜。
『第16回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2021)』
期間:2021年3月5日(金)〜14日(日)
会場:梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホールほか
※ABCホールは映画祭公式サイトもしくは当日会場にて、それ以外は各劇場の公式サイト・窓口にて
料金:一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円
電話:06−4301−3092(大阪アジアン映画祭運営事務局)
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