神戸・長田で愛されるソウルドリンク「アップル」の正体とは?

2021.9.18 09:45

長田名物「そばめし」と「アップル」(お好み焼き屋「青森」にて)

(写真15枚)

透明のグラスに入った黄色い液体。実はこれ、神戸市長田区で親しまれるソウルドリンクで「アップル」という。神戸のお好み焼き屋や居酒屋、お風呂屋さんで主に販売されており、神戸出身の女性記者にとっても思い出深いドリンクだが、それ以外のエリアではまったく知られていないという。「アップルって名前なのにりんご味じゃない?」「実はサステイナブルの元祖?」・・・と、謎の多い「アップル」の秘密に迫るべく、生産元である「兵庫鉱泉所」(本社:神戸市長田区)を訪ねてみた。

■ 「アップル」とは?

神戸・長田で60年以上にわたって愛されている「アップル」。名称からして「りんご」味と思いきや、風味はなんと「みかん」。長年このドリンクを飲んで育ってきた記者は、ずっと疑問に思っていた。

「兵庫鉱泉所」の秋田さん(64)に理由を訊いたところ、「理由は正直僕にも分かりません(笑)。父親が作り始めて、名前の由来は聞いてないんですよね。でも僕が思うに、最初は『みかん水』だったこのドリンクの名前を、神戸のおしゃれな人たちがカタカナに変え『オレンジ水』にしたけれど、オレンジジュースと同じになってしまうというのに気付いたんでしょうね。そして、このドリンクに使用されている酸味料のひとつに『りんご酸』というのがあるので、そのりんごを取って、『アップル』になったんじゃないかなと思います。あくまで推測ですが・ ・・」と話す。

■ なぜ神戸の長田限定ドリンクなの?

現在「アップル」は、神戸・長田のお好み焼き屋や駄菓子屋、風呂屋を中心に出荷しているといい、取り扱い店舗は「配達可能な場所にある店」だそう。というのも、同商品は、発売当初から空瓶にドリンク飲料を入れて発売(当初は廃業した業者から瓶を集めていたそう)しており、空瓶には「返却」のルールがあるのだ。

返ってきた空瓶を洗浄して、そこに新たにジュースを入れ、また返ってきたらそれをずっと使い続けるといったリターナブルな製造方法のため、同商品を直接配達できて空瓶を回収できる範囲が、「アップル」が飲める地域だという。

「兵庫鉱泉所」の秋田さん

同じものを継続的に使用する「サステイナブル」を意識した店も増えてきている昨今。マイカップを持っていくと割引が適用されたりするキャンペーンをおこなっている大手コーヒーチェーンなども街なかで目立ってきた。

だが、60年以上も前からこの「サステイナブル」な製造方法をおこなっていた秋田さん。「食べ物を買いに行くときは入れ物を家から持って行って入れてもらってたり、昔はみんなこうだったからね。今は全部プラスチックやらペットボトルだから、子どもたちはこういったことを知らないんじゃないかな。今の時代にもこのリターナブルな製法が浸透してくれたらいいな」と話す。

「兵庫鉱泉所」から出荷した瓶の約98%が使用後にきちんと返ってくるといい、保証金を付けて出荷しているんだとか。また、メインで使っている凹凸のない瓶のほかに、昭和30年代から使い続けているものや、昔は違うドリンクの瓶として使っていた「パレード」や「ジョニー」と書かれたものなど、年代モノもあるという。

かつてミルクコーヒーが詰められ販売されていた「パレード」

■ 今後の「アップル」の展望は?

「『全国で発売したらいいじゃない』という声はよく寄せられますが、全国では販売しません。ペットボトルとか、使い捨ての瓶などもあるけど、うちは瓶が3000本あったら、その分作って、そしたらまた3000本返ってきて・・・っていう風に、くるくる回るこの製法が良いかなって思うので」と秋田さん。

秋田さんが父親から引き継ぎ、製造している同商品だが、後継者は今のところいないとのこと。「僕が元気なうちは頑張ります」と話していたが、記者を含め「アップル」に思い入れのある人はきっと多いはず。これから先もずっと受け継がれるドリンクであってほしい・・・そう強く思った。

秋田さんから最後に、「記事にしてもらって、『飲んでみたい!』って方がいてもオンライン注文ができないので、飲みたい方がいたら長田まで来てくだいね!」とのメッセージを託された。

「アップル」が飲めるのは神戸市長田区の飲食店で、お好み焼き屋や居酒屋がメイン。1957年創業の、長田名物「そばめし」の発祥店としても知られるお好み焼き屋「青森」(神戸市長田区)でも飲むことができる。アップルの甘みと、そばめしやお好み焼きの辛口ソースのコラボレーションはなんとも絶品なので、訪れた際はビールと言わず、ぜひアップルを頼んでみてほしい。

写真/鈴木智沙子

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