小説家が書店社長に、縁もゆかりもない「本屋」を救った理由
売上減少の憂き目にあい、閉業の危機に陥っていた書店「きのしたブックセンター」(大阪府箕面市)が、小説家の手によって見事に復活。1カ月のリニューアル工事を終え、11月1日の「本の日」に再出発を果たし、SNSでは「素晴らしい」「とても素晴らしい文化貢献だと思う」と注目を集めている。
救いの手を差し伸べた作家は、時代小説『羽州ぼろ鳶組』(祥伝社刊)シリーズで人気の直木賞候補・今村翔吾さんだ。「箕面の潰れそうな書店がある。事業継承してみないか」と、M&A業に携わる知り合いからから気軽に声をかけられことをきっかけに、経営を引き継ぐことを決心したという。
小説家が書店の社長になるケースは、全国的にみてもレアケース。おまけに今村さんは京都生まれ、滋賀在住。縁もゆかりもない箕面の書店に注力することになった理由を、本人に訊いた。
◆「作家人生をかけた『街のインフラ』存続大作戦」
──小説家が潰れそうな書店を救う、とてもドラマティックなストーリーですが、経営そのものに興味はあったのでしょうか?
実業家の父のもとで僕も商売を学び、前職ではダンススクールを運営していました。ですので、人並には店舗経営について理解しているつもりです。
社長の視点でこの書店を判断するなら、利益の可能性についてはフィフティフィフティです。そのうえで、この先100年続ける手腕や思いがあるのか自分に問うたとき、「続けなければいけない」という気持ちが強かったんです。
周囲のスタッフも「全力でサポートする」と言ってくれたので、事業継承を決めました。
──今、同じような境遇の書店が全国にあるなかで、箕面の店舗を選ばれた理由は?
以前は箕面市内に書店がいくつかあったそうですが、現在は「きのしたブックセンター」の1店舗だけです。閉店すれば、地域の皆さんは徒歩圏内で本が買える場所を失うことになる。
僕は幼い頃に書店で池波正太郎先生の小説に出合い、こうして作家人生を生きているので、本屋が結ぶ縁を人一倍強く感じています。本屋は「街のインフラ」。なくしてはいけないという強い危機感で受け継ぎました。
確かに僕は滋賀在住で箕面市にゆかりはありませんが、知人が声を掛けてくれたあの瞬間、この土地と縁が繋がったのだと確信しています。
──今村さんが本屋の社長になることを、書店さんや同業の先生方はどのように感じているでしょうか。
自著のPRのために日頃から全国の本屋へ足を運んでいましたので、現場のみなさんのご苦労や楽しさを肌で感じていました。その際に出会った書店さんからは、「今村先生も私たちの仲間ですね」と声をかけていただきました(笑)。
時代小説の大先輩には「書店を経営するとは本当に頭が下がる思いだ、頑張って」と応援してくださったこともうれしかったですね。
──お忙しくなられると思うので、執筆業についてご心配される方もいらっしゃるような・・・。
執筆業とは平行して、社長業もおこなっていきます。とはいえちゃんと稼いでいくには、僕が頑張って作業をするよりも、執筆して、優秀なスタッフにお任せする方が良いということになりました。9割が執筆業、1割が社長業で考えています。
◆「作家が営む本屋らしい提案をしたい」
──リニューアルオープンする上で課題やお客さんの反応があれば。
これまで本が売れづらいので在庫が少なかったということが判明しました。良い本でも1冊しか置いていなかったり・・・でも、それでは、その1冊が売れてしまうと、もうほかの人が出合う場を失ってします。そこで、在庫を増やすために改装しました。これまで在庫は1万冊でしたが、まずは1万3000〜4000冊にできればと思っています。
現在は、僕のツイッターをきっかけにご来店くださったり、「お店がきれいになり明るくなった」「リニューアルを待っていた」とのお声をいただいたりと、反響の大きさを感じています。また以前と比べると、新規のお客さまが週末に多数来店されているのが大きな違いですね。
──これからどのような展開を考えていますか。
書店は「物語を売る」場所です。ここに集まった1つひとつのストーリーを、お客さまへどのように届けていくかを作家目線で企画していきたい。例えば僕と書店スタッフそれぞれの選書コーナーを作るとか。僕のサイン会は当然やります(笑)。ほかには、知り合いの先生をお呼びしてのトークイベントなど「飛び道具」的なスペシャル企画も予定しています。今後は、ふらっと立ち寄ってもらえるための変化づくりを常に考えていきたい。
実は、1日でも早いリニューアルオープンを目指したため、店舗の改装には心残りがあって。年内をめどに、理想の内装にできるだけ近づけたいと思っています。また、お客さまのニーズに細かく対応していく分析体制も整えていくので、今後のラインアップにご期待ください。
◆
11月28日には1日店長をつとめ、サイン会をおこなう予定。営業は朝11時〜夜8時、土日祝は〜夕方6時。場所は阪急箕面駅から徒歩約5分。
取材・文/中河桃子
「きのしたブックセンター」
住所:大阪府箕面市箕面6-4-28 サンクスみのお2番館
営業:11:00〜20:00(土日祝は〜18:00)
電話:072-722-1915
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