「大学誘致ありきなのか?」、神戸の再整備案に市民が紛糾

2022.8.3 06:00

グループワークに入る前、進め方への不信などから意見が噴出し、会は一時停滞した(7月14日・王子動物園)

(写真15枚)

■「大学ありき」だから市民は「反対ありき」なのか

グループワークで、テーブルを巡り質問に答える神戸市職員(7月14日・王子動物園)
グループワークで、テーブルを巡り質問に答える神戸市職員(7月14日・王子動物園)

進行を任されたファシリテーターがなんとか場を収め、グループワークが始まったのは、予定より30分遅れの7時半。

約1時間に縮小されたグループワークでは、さまざまな意見が活発に交わされ、神戸市職員も各テーブルを回り、市民の質問に答えたり、意見を聞いたりしていた。

「大学を誘致しない素案も、一度つくって提示してほしい」「若年人口の定着には、大学をつくるよりも子育てしやすい施策が大事。隣の明石市は子育て施策で人口が増えている」など、総じて大学誘致に反対する意見が多かったが、「大学を誘致するなら、(動物園と連携が期待できる)獣医学部のある学校を」という意見もあった。

筆者も話し合いのテーブルを巡ったが、参加者たちは、大学や若者そのものが嫌だというより、神戸市の進め方に不満を抱いているように感じた。市の進め方が「大学ありき」に見えるから、市民側も「反対ありき」になってしまう、という具合だ。

最後に、各テーブルのファシリテーターが意見をまとめて発表。個別の意見も含め、すべて神戸市に届けられるという(7月14日・王子動物園)
最後に、各テーブルのファシリテーターが意見をまとめて発表。個別の意見も含め、すべて神戸市に届けられるという(7月14日・王子動物園)

意見交換会に参加した神戸市在勤の20代男性は、会が紛糾したことについて「それだけ注目度が高いことなので、仕方ないのかなと思う」と話していた。

この再整備の最初の素案が発表されたとき、久元喜造神戸市長がツイッターに「私の関心は動物ではなく、王子公園全体の再整備にありました(一部抜粋)」と投稿したことから批判が殺到。しかし、廃止予定だった遊園地が存続することになったからか、今回の意見交換会では動物園よりも、大学への関心が圧倒的に高かった。

■大学が水面下で決まっていることは「あり得ない」

大学に関する反対意見が多い(7月14日・王子動物園)
大学に関する反対意見が多い(7月14日・王子動物園)

神戸で生活していると、「すでに水面下で、誘致する大学が決まっているのではないか」という噂を耳にする。

根拠のない噂であることは承知のうえで、こうした声があることを武田副局長にぶつけると、「それは絶対にあり得ない。公募手続きをするにあたり、基本方針を確定させないと進められないので。現在は手順を踏んでいくための、まだ最初の入り口」とのこと。

今後の進め方については「とにかく意見をしっかり受け止める。将来の神戸市にとって新しい価値を生み出すこと(市全体の価値向上)と、原田の森を継承していくこと(近隣住民にとっての利益)の両立を探っていく。そのために細かい意見を聞かせていただきたい。(反対の)理由を聞かせていただければ、それを解決するための検討をしたい」と話した。

取材の最後に、副局長がぽつりと「大学ができるの、そんなに悪いことかなぁ・・・」とつぶやいていたのが印象的だった。

■若い世代の声が聞きたいが・・・

今後も黄色い星印のところで複数回、市民の意見を聞く機会を設ける予定(神戸市提供)
今後も黄色い星印のところで複数回、市民の意見を聞く機会を設ける予定(神戸市提供)

一般向けの意見交換会は、7月24日にも開催された。神戸市への聞き取りによると、この日もグループワークに入る時間が予定より40分遅れ、大学誘致に疑問をもつ声が多かったという。

これら2回の意見交換会は、参加者の大半が50歳以上の中高年世代だったため、若い世代の意見を聞きたいところ。しかし学生向け、子育て世代向けの回は応募が少なく中止となり、違う方法で意見を聞けないか、市は模索しているという。

今回の再整備は、市民から意見を聞く機会がかなり多く設けられている。せっかく機会があっても、市民自身がそれを生かさなければもったいない。ただ一方で、市のツイッターやFacebookをさかのぼると、一度参加者募集を始めて以降、それを呼びかける投稿はなかった。

実際、意見交換会でも「(この会が)ガス抜きにならないように」との声があったが、行政側も市民側も、貴重な機会を最大限に活用してほしいと願わずにはいられない。

取材・文・写真/合楽仁美

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