フェリシモの企画はなぜ刺さる? ミュージアム部の会議に潜入
「美術館に履いていきたい 音が響きにくいエナメルTストラップシューズ」という、なんともニッチな商品が話題になった通販会社「フェリシモ」(本社:神戸市中央区)のブランド「ミュージアム部」。
同商品のほかにも、能面をモチーフとした化粧ポーチや、絵師・長沢芦雪が屏風に描いた犬を原寸大サイズ&360度立体的に再現したポーチなど、ユニークで多くの人に刺さる商品を連発している。このような個性的なアイテムはいったい、どのようにして生まれるのか? 「ミュージアム部」の企画会議に潜入し、部員の内村彰さん、山成結花さん、近藤みつるさんに話を訊いた。
■ 「部署」でないからこそ飛び出す自由な発想
──「ミュージアム部」とは社内のサークルなのですか? どういう体制で動いているのでしょうか?
山成さん:「フェリシモ」には、組織上の部署とは別に、社員が好きなものごとをテーマに「好きだ!」「やってみたい!」という気持ちから集まって、将来的に事業化を視野に入れて立ち上げることができる部活制度「フェリシモ部活」があるんです。
──本当に「部活」なんですね!
山成さん:そうなんです。実は、ここにいるメンバー全員が商品企画をメインに活動しているわけではなくて、それぞれマーケティング担当やSNS担当などさまざまな分野で活躍しています。なので、「ミュージアム部」は会社の直轄の「部署」ではなく「部活」として動いているんです。
── なるほど、「部活」だからこそ自由なアイデアが生まれやすいのでは?
山成さん:そうなんです、やっぱり好きで集まっているのでね。
── 「ミュージアム部」の商品を見れば納得です。作り手の偏愛が垣間見えるというか・・・。
近藤さん:本人にとってはそれが至って普通で、自然体で好きなだけなのですが、ほかの人からすると「それはだいぶクセがあるよ」っていうことが多いです。
山成さん:ほぼ毎月新商品を出しているので、商品ごとにメンバーそれぞれのクセが楽しめます。「好き」という気持ちで企画しているからこそ、個人の思いが詰まった商品ができあがるのかも知れないですね。
── 目の付けどころもなかなかニッチですが、インスピレーションはいったいどこから?
内村さん:同じ「ミュージアム部」とはいえ、それぞれ好きなジャンルが全然違うので、実はみんなで一緒にミュージアムに行く機会はほとんどありません。
近藤さん:一度試みたのですが「なんか違うな」って。なので、それぞれが課外で好きなことをして興味深いと思ったものを持ってくる感じですね。「こういうのがおもしろかったよ」っていう話題から企画の話になりますね。
内村さん:それぞれ好きなジャンルについて「実はこんな世界があるんですよ」と教えてくれて、ほかのメンバーが「そうだったんだ!」というパターンもあれば、「初めて知ったんですけど実はこういうのがあるみたいです」という風にはじまる場合もあります。昨今はミュージアムや企画展のほか、SNSからおもしろいヒントを見つけることもありますね。
近藤さん:例えば私は、中山道広重美術館(岐阜県恵那市)の公式Twitter(@hiroshige_ena)が行っている“絵師・歌川広重の作品にしばしば登場する名も無き人物”に焦点を当てる「#広重おじコレ」という企画に、すごく共感したんです。「確かに、広重の描くおじさんって素敵!」と。その後、ご縁もあって、現在中山道広重美術館さまと進めている企画があります。
■ 一体どんな会議が? 「『愛』は否定しません」
── 部員のみなさんそれぞれが、個人的にグッとくるものを提案するんですね。過去に、さすがにこれはマイナーすぎるぞ・・・となった案はありますか?
近藤さん:どれだけマイナーでも止めはしないですね。基本的には、「どうしたらそのおもしろさが伝わるかな?」 という話になります。例えば、歴史に関するものは、難しくなりがちなので、「どうしたらキャッチーになるかなぁ」とか。
山成さん:「ポーチが作りたい」っていう風に物が先行するのではなくて、まず「ここが好き! おもしろい!」 というエッセンスをどうアウトプットするかという話の進め方をするんです。その結果、立体ポーチができたり、クッションができたりします。
── 商品の前に、部員が愛するエッセンスが先行しているのですね。それを聞いて、どうしてこんなニッチな商品が生まれるのか理解できた気がします。
近藤さん:魅力を感じている部員が、まだその魅力を知らない部員に説明して一緒に掘り下げていく。だから会議で「広重おじさんはかわいくない」という結論には⾄らないんですよね。基本的に部員の愛は否定されません。
──良さを伝えるためにどういう形で商品化していくか、これが会議の肝なんですね。
内村さん:例えば芦雪犬のペンケースにしても、この子の良さを伝えるためには、原寸大にした方が屏風絵に書かれている巨大な牛のサイズ感がわかって「この牛ってとても⼤きいんだな」って会話につながるんじゃないかとか、商品を通じてモチーフになった作品を知ってもらうきっかけづくりも意識しています。
山成さん:美術館や博物館は敷居が高いと感じている方もいらっしゃると思います。こういった商品がミュージアムをもっと身近に感じてもらうきっかけになったらと考えています。
近藤さん:やっぱり最終的には、いつかその作品を観てほしいという思いがあります。なので、作品のことを知っていただけるように、作品の魅力を紹介する「ミュージアム部」の公式noteの記事や情報カードを、商品と併せて企画しています。
■ 「『好き』が尽きることはない」
──商品がきっかけで作品を知ったり、興味が出る人はたくさんいるでしょうね。アイデアを出すに当たって、好きなものが尽きてしまうことはないんですか?
近藤さん:むしろ、ちょっと沼が広がってきています(笑)。コラボしたミュージアムの方や「ミュージアム部」の部員たちから教えてもらうなどして、元々好きだったことが⾊んなことにつながっていくんです。そうすると、どんどん興味の幅が広がりますね。
山成さん:部員同士の会話で興味を持つきっかけも増えました。例えば部長の内村は仏像が好きで「おてらぶ」の部長でもあるんです。
内村さん:私は仏像が好きで年間たくさんのお寺や仏像を展示しているミュージアムに行くのですが、自分ひとりだけで観てるとただの立体物で終わってしまう。美術史に詳しい山成と話すと、神仏の世界観とは別の観点で会話ができるので、知的好奇心が広がっていくのを感じます。
山成さん:私も同じように刺激を受けて仏像展を観に⾏くようになりました! 興味の幅が広がって、楽しみ方が深まった結果、「おもしろいな」と感じられること自体が増えた気がします。
近藤さん:やっぱりいざ企画を進めるとなると、さらに調べるんですよ。そうすると元々好きなことを深掘りしていくんで、愛は深くなるし広がるばかりです。
山成さん:終わりはないですね、なので尽きる心配は今のところなさそうです。
♢
部員たちの、ミュージアムや作品への真っ直ぐな愛を商品化する「ミュージアム部」。今後はどんなクセ強アイテムを作ってくれるのか、目が離せない。
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