大阪の地で100周年、立ち飲み「赤垣屋」が愛され続ける理由
■ 「これが、社長が言うてたことなんか、と」
──数ある居酒屋があるなかで、常連のみなさんが「赤垣屋」に通う理由について、大島店長は何だと思いますか?
「ここは癒やしや」っていう人もおるし、あとは人と人との、僕らとの繋がりとかね。安いから、おいしいからっていうのは前提なんやけど、何かホッとできる場所っていうのが1番大きいんかなっていうのはすごく感じます。
先代がよう言うてたんですよ。お客さんが来たとき、僕らがニコッとして迎えたら、お客さんの心もほどけてリラックスして、1000円で飲んで、家帰るやろ。仕事で嫌なことがあってもな、赤垣屋来てホッとして帰ったら、奥さんや子どもにやさしくできんねん。
で、そうなったら家庭が円満になるやろ。円満になったら、また明日も仕事頑張ろうかってなる。そこで頑張ってまた赤垣屋に来る。このサイクルができたら、日本の世のなかが良くなるんちゃうかって。
僕、最初はよう分からんかったんですけど、梅田店で店長やったときにね、レジに立ってて、カウンターにずらっと並ぶお客さんたちの背中を見てたときに、なんかだんだんとわかるようになってきて。いろいろみんな背負ってるんですよ。
──カウンターにずらっと並ぶ方々が。
いつも来るお客さんでね、怖い顔してなんか怒ってるような人がおって。いつも500円で帰るんですよ。忘れもしない、日本酒1本300円とおでんの厚揚げとたまごで500円。そのお客さん、1000円札をいつも出すから、僕が500円渡して帰られるんですね。
いつも怒ってるような顔してて、同じ時間に来て、同じ時間に帰るんです。で、ある日僕が「毎度おおきに」って言って500円を渡したら、僕の顔をじーっと見てくるんです。「どうされましたか」って聞いたら、「店長、俺のこと覚えてるんか」って。
──わぁ。
「覚えてますよ。毎日来ていただいて」って言ったら、「そうか。俺、中間管理職で残業するなって言われてるからはよ帰らなあかんねん。で、帰ってもな、家で仕事すんねん。でもちっさい家やから、子どももバタバタするし、酒もゆっくり飲まれへん。やからここの赤垣屋での10分間だけが俺の時間や。ありがとう」って帰っていって。
──えー、めっちゃ良い話。
そのときに、「あーこれが社長が言うてることやねんな」と思って。そうなってくると、作業でやってることが仕事になってくるんですよね。「ほんまにいつもありがとうございます」って思うし、「どないしてお客さんに早く飲み物を出してあげるか」とか、そのお客さんの好み覚えて、とかね。
──なるほど。それにしても先代、名言多いですね。
確かにね。それで、創業時の「兄ちゃん、おいしかったで」というようなエピソードとかを思い出して、「心のオアシス」という理念になったんですよね。
■ 「心のオアシスとして、正直に誠実にやっていきたい」
──そんな心のオアシスを求めて、朝から晩までいろんな方が訪れるんですね。
朝やったらガードマンのおっちゃん、ホテル業、宿泊施設。そう、コンビニやってる人、市場の人、 駅員さんも多いです。ほんまにいろんな人いてますよ。
──1人でゆっくり飲みたいけど、でも、1人ぼっちで飲むというのは、なんか違いますよね。その距離感が「赤垣屋」は絶妙で、それがやっぱり癒やしであり、心のオアシスなんやろなと思います。
確かに距離感は保つようにしてますね。たとえば、差し入れはもらわない、連絡先の交換をしない、一緒に飲みに行かない。もう社員全員に最初の初期研修のときに話をしてます。これぐらいの規模の店やと、絶対それはしたらアカンと思っています。
──踏み込まず絶妙な距離感を保ちながら、お客さん1人1人を思って接する。これは簡単なようで難しいですよね。100年続く秘訣はここにあるように思います。
今後も、お客さまの「心のオアシス」であり続けるよう、正直に誠実にやっていきたいと思います。
◇
創業当時から支持されている「どて焼き」をはじめ、なんば店・なんばウォーク店限定の「スーパーなんばステーキ」「スーパーなんばビーフカツ」など名物もたくさん。いつ行っても楽しいメニューと出合うことができる。
安い、早い、うまい、そして心地が良い。昨今、売り上げ重視の企業の不祥事がよく報道されるが、その真逆をいく「赤垣屋」がこんなにも愛され、100年続いているという理由。先代が残した「ウソついたらアカンで」は、今の時代にこそ響く言葉ではないだろうか。
取材・文/Lmaga.jp編集部 写真/木村華子(外観は編集部)
立ち呑み 赤垣屋
「お立ち吞み処 赤垣屋 なんば店」
住所:大阪市中央区難波3-1-32
営業:10:00~22:30(LO22:15)、日祝10:00~21:30(L.O 21:15)
電話:06-6641-3384
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