【どうする家康】サプライズ連続の臨終、孤独から幸せな夢へ
古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。12月17日放送の最終回『神の君へ』では、戦国の世を駆け抜けた家康の人生がついに終幕。思いがけずオールスターキャストがそろうなど、最後までサプライズをたたみ掛ける展開に、SNSはねぎらいよりも驚きの声があふれかえった(以下、ネタバレあり)。
■ どうする家康、手に入れたかったものは?
豊臣家を滅ぼした翌年、家康は病に倒れて駿府城で寝たきりとなる。しかし若者たちは家康を「神の君」や「狡猾な狸」などと人外のモノのように恐れ、近寄ろうとはしない。
ただひとり世話をしている側室・阿茶局(松本若菜)は、見舞いに来た本多正信(松山ケンイチ)に「(家康は)お幸せだったのでございましょうか」と問いかける。正信は、家康はこの世のすべてを手に入れたが、本当に欲しかったものは得られなかったのではないかと、暗に語るのだった。
正室・瀬名(有村架純)と長男・信康(細田佳央太)が枕元に立つ夢を見た家康は、そのまま信康と、織田信長(岡田准一)の娘・五徳の婚礼の日の思い出の世界に入る。
信長から送られた鯉を食べた疑惑のかかった家臣を、手討にしようとした家康だが「大事な家臣を鯉と引き換えにはできぬ」と思いとどまり、家臣たちはそんな家康に感謝する。家康はみんなにこれまでの礼を述べ、婚礼の幸せな空気を噛み締めながら、瀬名とともに将来の「戦なき世」の幻が浮かぶ空を眺めるのだった・・・。
■ 詳細は不明のままだった「婚礼での鯉の話」
重荷を負うて遠き道を行くがごとし徳川家康の人生の、最後の1年が描かれた最終回。乱世の不穏分子を完全に一掃し、天下泰平の偉業を達成したその余生は、さぞ充実した気持ちだっただろう・・・と思いきや、従来にない家康像でセンセーションを巻き起こした『どう家』らしく、松本&古沢がそろって「かわいそうな人」と言うほど孤独な最期に。とともに、誰も予想できなかったフィナーレに突入するという、まさに古沢節全開といえるラストになった。
まず家康が良くも悪くも神格化されすぎ、無礼討ちにされるのを恐れて、誰も病床に近寄ろうとしないという光景に、SNSは「神君でも狸でもない、普通の人間である本当の殿のことを知っているのが、正信と阿茶さまだけになってしまった」「『人ならざるものになってしまわれた』『本当に欲しかったもの』あまりにも考えさせられる」「お世話は阿茶だけ。ご苦労さまと声をかけるのも正信だけ。こんな寂しい、悲しい家康見たことない」としんみりする声が。
そんな家康の元に現れたのが、30年以上前にそろって非業の死を遂げた瀬名と信康だ。このまま、瀬名と信康が家康を黄泉の国へと連れて行くんだろうな・・・と思いきや! なんと物語は突然、信康の婚礼の日にワープ。かつて何度も話題に出ながら、詳細は不明のままだった「信康の婚礼のときの鯉の話」が、後半30分をかけてじっくりと語られる展開に。このあまりのトリッキーさに、SNSは「視聴者にとって『?』だった意味深エピソードを、まさかの最終話で回収されるとは」「だから何度も出てきた鯉の話は前フリだけだったのね。古沢良太らしい展開」と、してやられたというようなコメントであふれかえった。
■ 家康の辞世の句になぞらえた大胆な構成
そして久々に三河家臣団が大集合し、全員が結託して殿を担いだことを明かし、家康も憤慨しながらも「大事な家臣」を失うような行動は決して起こさない。視聴者にとってもはるか昔のことに思える光景、次々と家康にお礼を述べる懐かしい人々、そして家康は若い姿のままなのに、動作や口調は現在の75歳の家康と完全に重なるという松本の演技に、SNSでは感激や感心や号泣などのさまざまな言葉が止まらない状態に。
「最終回に回想どころじゃない尺の新エピソードぶち込んでくる度胸が凄すぎて感服」「最後の『どうする』が鯉の顛末だとは」「顔も格好も若いころの家康なのに、腰が曲がってみるみる老人の所作、表情、声になっていくのめちゃくちゃすごい」「孤独な死かと思ったら、幸せな想い出での死で少し救われたな」「ある意味で自分が殺していった大事な仲間たちに、あなたはよくやった、あなたのお陰、ありがとうと言われたかったんだな。最期にその夢を見るのは、けして悪いことではない」などのコメントがあった。
そしてラストは、家臣たちが婚礼祝の「海老すくい」を踊るなか、家康と瀬名が眺める空の向こうに、現在の東京の風景が広がっている・・・という、幻想的なシーンだった。家康の辞世の句「嬉やと 再び醒めて 一眠り 浮世の夢は 暁の空」(うれしい気持ちで目覚めたけど、また眠ろう。この世で見たのは、夜明けの空の夢)になぞらえ、夢と現(うつつ)、あの世とこの世、過去と未来を同時に描き出すという、非常に大胆な構成だ。
SNSでも、「こんな最後の最後まで、海老すくいをやると思わなかった。思えばうれしいときも悲しいときも海老すくいだったね」「影の主役は海老すくいと言っても過言ではない」「大河最終回のラストにまさかの東京タワー。一番のサプライズ」「家康に見えていたのは、目指したのは江戸の、東京の、現代のいまの都市なのか!!」「戦国時代の出来事だからといって他人事ではなく、今も戦はこの世から無くなってはいない。古沢良太氏が今の世界情勢を考慮した上での願いを込めた演出なのかな」などの声があふれた。
■ 1年をかけて変容した家康、「前衛大河」的作品に
時間軸の入れ替えなどの従来の大河にはないストーリーテリング、お約束の描写を廃する代わりに「なんだそれ?」と思われかねないオリジナルエピソードの挿入も辞さない。多くの賛否両論を巻き起こした『どう家』だったが、その「異論上等」と言わんばかりのアグレッシブな姿勢は、ラストまで変わることなく貫かれた。視覚効果も含めて、いろいろと実験的な試みが多かった本作は、前衛絵画ならぬ「前衛大河」とも言うべきエポックメイキングな作品になったのではないかと思う。
また、最初はただただ気弱で周りに振り回されるという、戦国大河の主人公らしからぬキャラクターから、さまざまな「どうする」に遭遇するたびに、目立たないほど少しずつ威厳や貫禄を付け、ついには「これぞ神君家康」と言いたくなるような古狸に変化してみせた、松本潤の演技も忘れずに称賛しておこう。
物語1つひとつだけを見るのではなく、1年という時間をかけて家康はどのように変容するか? を、あらかじめ逆算して構築しないと、これほどのグラデーションは描けなかったはずだし、特に最後の「過去」と「今」がピタリと重なるような演技は 、絶対不可能だっただろう。松本も古沢も、また遠くない未来に、大河に戻ってきてもらえたらと心より願っている。
『どうする家康』は12月29日の昼1時5分から、NHK総合・BSP4Kで総集編を放送。また、次の大河『光る君へ』は2024年1月7日より、NHK総合では毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。BSP4Kは昼12時15分に先行放送あり。第1回『約束の月』は通常より15分拡大で、のちに『源氏物語』を発表する女流作家・紫式部となるまひろ(吉高由里子)の少女時代(落井実結子)と運命の出会いが描かれる。
文/吉永美和子
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