【京都・老舗の継承】京生麩の老舗「麩嘉」の7代目の挑戦

麩嘉の7代目・小堀周一郎さん
京都に150年以上続く生麩の専門店があります。明治天皇のために麩饅頭をつくったことでも知られる老舗生麩店「麩嘉(ふうか)」は、宮中や寺院、料亭などに納めるオリジナルの生麩を注文の数だけつくることを生業にしてきました。子どもの頃から「クリエイティブな人間でありたい」と思い続けてきた七代目・小堀周一郎さんのこだわりと挑戦について話を聞きました。
生麩は、小麦粉に水を加えて練り抽出したグルテンに、もち粉をあわせて寝かせたあと、蒸してつくられます。小麦粉からとれるグルテンの割合が少ないため、生麩は高価な食材です。また練り込む素材や色・形で四季が表現できる美しい食材として、食通に愛されてきました。
麩嘉の本店は、今も料亭などへの受注生産をおこなっていて、一般の人が訪れても購入できません。味わい深い京町家の本店の店先には、暖簾がかかるのみ。いっぽう錦市場にある錦店では、小売りをおこなっています。こちらでは生麩のほか、生麩饅頭、生麩を生地にしたたい焼き、熊笹のオリジナルスピリッツ(酒類)などが店頭にならんでいます。
「うちは予約生産を守ってきて、子どもの頃にばあちゃんが予約せんと買いにきはったお客さんに『予約してへん人に分ける生麩はない』ってキツイ言い方で断ってて、そんな言い方せんでもって思ったことを覚えてるんですよ。時代に合わなくなって、予約とかせえへんでも、一般の人に気軽に買っていただけるお店をやりたいと錦店をつくりました。昭和50年代後半ぐらいだったと思います」(小堀さん)
また東京・築地市場がなくなったため、場外で購入していた人のためにオンラインショップも開設しました。ちょうどコロナ禍と開設時期が重なり、すぐに売り上げが安定したそう。「お料理屋さんなどには安定して提供していたので、僕らはコロナ禍でも影響がなかったんです。オンラインで生麩を販売していたお店の売り上げを奪ってしまったのではないかと微妙な感じがありました」と振り返ります。
オンラインでも人気の生麩饅頭は、生麩と“あんこ”がお好きだった明治天皇のためにオリジナルでつくられたものです。御所の近くの本店がある通りは、昔は京都の代表的な市場「上の店(かみのたな)」で、宮中とつながりが深いお店がたくさん並んでいたそうです。麩嘉も宮中に出入りしていたお店のひとつでした。

麩嘉では丁寧にグルテンを抽出して生麩を作るのはもちろん、丹波大納言小豆も本店で炊いています。生麩饅頭の餡は、水分量の多いやわらかい生麩と一体になるようななめらかなこし餡に仕上げられていて、生麩とともにするりと喉を通ります。
生麩づくりは小麦粉に水と塩を入れて練る作業のみ機械を使いますが、ほかは手作業にこだわっています。ピカピカに磨き上げられた工場で、現在は小堀さんを含めて5名で全ての生麩をつくっているそう。「生麩の作り方は至ってシンプルです。僕らが介入できるのは乳酸発酵と温度をコントロールすること。そして手でつくるということです。非常にこだわってやっているので、自分らがつくっている生麩が一番美味しいと思っていますね」と小堀さん。

そんな小堀さんですが「僕、親父にね、生麩づくりって教えてもらったことないんですよ。一度も」と驚きの発言。和菓子屋さんにあるような配合帳みたいなものもなく、「見て覚えろ」が基本でした。また、一緒に働いていた職人に「頭を下げて教えてもらえ」とも言われたそうで、「あんたが教えてくれたらええのにと思っていた」と、すごく変わった人やったと笑います。
お父さんと一緒に横並びで生麩をつくった経験は2回だけです。そのときに『ものづくりの根本』について深く考えさせられたそう。「ものづくりの面白さっていうのは、同じものを同じ材料でつくってもつくる人によって形状も味も違う、つくった人間が味を決めるのがものづくりの面白さなんやって気がついて。だから、今の僕はものづくりが楽しい」
小堀さんが家業の麩嘉にはいったのは27歳のとき。ラグビーに熱中していた小堀さんは、大学を卒業してからラグビー選手としてマツダの本社で働いていました。充実した日々を送っていてサラリーマンを続けたいと、一時は弟に麩嘉を継がせてくださいという話までしていたそう。ところがラグビーで大きなケガをしてしまい続けられなくなり、母親に「ラグビーが終わったら実家に戻れ」と言われて麩嘉にはいりました。
「だから僕は子どもに強要したくない。子どもには継がなくていいって言ってる。この店は店の主人が店の味を守る。経営者になったらあかんっていうことをしっかり言われて僕は引き継いだ。親父もずっと職人だった」
朝はとても早いですし、仕事のやり方は時代に合っていないと思います。子どもは二人とも大学生ですが、楽な仕事じゃないことは、アルバイトに来たりしてわかっている。もう継がないってなったらどこかで閉じるつもりです。今働いているのは半分以上若い子なんで、迷惑をかけずに規模を縮小しながら閉じるやり方を模索するやろうなと思います。僕もサラリーマンをしましたし、子どもにはとにかく就職して、社会で立ってくれと言っているんで。親父の影響はすごく受けていて、やるっていうのであれば、職人として最後までやり切るそれなりの覚悟を持ってしてほしい。なんとなく継ぎそうな雰囲気もあるんですけど」
小堀さんは麩嘉にはいって1年ちょっとで生麩はつくれるようになったものの、一人前以上の職人になれたと実感を得たのは40代半ばでした。大きな転換期は47歳のときに作った「たい焼き」です。この方法ならつくれるとイメージしたものと一致したものがつくれるということがわかったことが自信になったそう。お父さんが古道具屋さんで見かけて購入していた、珍しく小さなサイズの鯛焼きの型を使うこともポイントです。「親父は3年ほど前に死んだんですけど、死ぬちょっと前に完成形を見せられた。『お前、できたか。できたんか』みたいな感じでした」

現在は、生麩を使ったワッフルをつくり込み中です。バレンタインの頃にはチョコレート生麩などもアップデートしつつ、洛北エリアの「花背」(京都市左京区)で育てた熊笹の香りが楽しめる蒸留酒・スピリッツも開発・販売しています。また「花背農園」をつくり、香りの良い京都産の柚子と山椒をつくり始めました。収穫までに数年かかりますが、つくり手が少なくなってしまった京都の食材を残し、里にお金を落として過疎を防ぐ仕組みになればと考えています。「子どもの頃から、クリエイティブな人間でありたいと思っていた。今は考えたことを形にできるのがうれしい」という小堀さんは現在52歳。挑戦はまだ続きます。

取材・文・写真/太田浩子
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